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イジメはなぜ無くならないのか ~名著『悪の自然誌』を読み解く~

コンラート・ローレンツ著『悪の自然誌』をご存じでしょうか。www.amazon.co.jp/dp/4622015994
 
この本の内容を、出版社のみすず書房から以下に引用して紹介します。

本書は、比較行動学の立場から脊椎動物における《攻撃本能》といわれるものに新しい角度から光を当て、世界中に大きな反響をまき起こした。

さんご礁を中心とした美しい世界で展開される色とりどりの魚たちの激しい種内闘争のスケッチから筆を起こし、さまざまの典型的な攻撃的行動を観察し、同一種族間に行なわれる攻撃は、それ自体としては決して《悪》ではなく、種を維持する働きをもっていることを示す。つづいて本能の生理学一般、特に攻撃本能の生理学について詳細な考察を行ない、さらに攻撃本能が儀式化される過程を興味深い実例によって述べる。最後に、種が変化するにつれて、攻撃を無害なものとするためにどのような仕組みが《編みだされ》てきたか、儀式はここでどのような役割をひき受けるか、またこうして生まれた行動様式が、《文明をもつ》人間の行動様式とどれほどよく似ているかが、実例を通して具体的に示される。そしてたとえば、ひとりの生物学者が火星から人類をみたらこうもあろうかというふうに、人類の置かれている現在の状況が客観的に描かれるのである。

[1970年初版発行(みすず科学ライブラリー)]

完結にまとめると「動物が同種内においても互いを攻撃するのは、種の保存という観点からは正しい行動なんだよ」ということを主張した内容です。ローレンツは、こうした「同種内攻撃(仲間を攻撃すること)」は人間にも当てはまると言っています。そこでぼくは、本書で主張されている、攻撃を「イジメ」に置き換えて読んでみました。すると、「子ども同士のイジメは、理にかなった本能によるものなので、無くすことはできない」という風に理解できます。
 
感覚的に「イジメはいつでもどこでも起こり得るし、なくならないよね」ということを感じている先生はたくさんいらっしゃると思うのですが、それを学術的に説明できる方はほとんどいないと思います。ぼく自身も、読むまでは感覚的にしか言語化できていなかったのですが、この本を読むことで、それを遺伝的、構造的、学術的に理解・言語化することができます。もしこうしたことの興味がある方がいたら、ぜひ一読されることをおすすめします。
 
本記事ではそこに深く突っ込むことは避けて、「じゃあどーすればいいのよ?」というところを考察します。当然ですが、イジメを無くせないという立場に立った時「じゃあなにもしないで諦める」というのは教育者の立場としては失格です。以下、書籍を読んだ上でぼくが意識していこうと思ったことを3点にまとめました。
 
①アンカーマネジメント
怒りをコントロールする方法として「アンガーマネジメント」という手法があります。具体的には「水を飲む」とか「6秒数える」というものが代表的です。ぼくは今現在、特別支援の情緒学級の担任をしています。支援が必要な子の中には、自分の感情をコントロールする子が難しい子がいます。そこで、こうしたアンガーマネジメントの手法を教える事で実践し、少しでも自分の感情と向き合うという時間を作らせるように心がけています。攻撃本能自体を無くすことはできないので、それを少しでも和らげたり、コントロールするという方向で教えていくということは、非常に建設的なアプローチだと思っています。
 
②スポーツ
人間の攻撃性は、それが相手に向かうから問題となるのです。なので、その攻撃性を別のところで発揮させればいい。その代表的なものが「スポーツ」です。スポーツというルールの中で攻撃性を発揮させれば、集団や個人へのデメリットはなくなりますし、なおかつ攻撃性を発揮する機会をつくれます。その上で、攻撃性をどうコントロールするかを学ぶ経験を積み重ねることができます。授業の体育の時間や部活動といった教育活動には、こうした側面がある、ということを理解しておくのは重要かもしれません。
 
③関係性の構築
人間が他の動物と決定的にちがうのは「感情がある」ことだと思います。例えば怒りのコントロールが難しい人が攻撃を行う対象は、主に「関係性の薄い人」です。なので、いくら怒り狂っていても、仲の良い親友とか大好きな両親に攻撃する人はほぼいません。そこは、攻撃性よりも関係性が勝ちます。なので、その関係性をいかに構築するか、ということに重点を置くことが重要だと思います。例えばぼくは、『学び合い』という実践の中で「友だちを大切にする」ということ学校生活の中でも授業の中でも重要視し、それ価値づけていくことを毎日行っています。すると子どもたちは、思うだけでなく少しずつ行動でも示してくれるようになります。こうした地道な積み重ねが子ども同士の関係性をより良くし、攻撃性を無くすことは無理だとしても、それが重度のイジメに発展するという可能性を低くすることにつながると考えています。
 
これらは書籍を読んでみてのぼくの感想みたいなもので、確固たる根拠(エビデンス)があるわけではありません。が、それほど的外れではない気がします。
ぜひみなさんも、本記事をきっかけに「イジメ」について少し考察してみてはいかがでしょうか。
 
 
 

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