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椹野道流
2024年12月22日 00:04
実家を手放して1日。朝起きて、天井にぶらさげたポーランドのペーパークラフトを見上げながら、「ああ、これで私は泣いて帰る場所を失ったのだな」とぼんやり思った。実際にそんなことをした覚えはないが、心情的な話である。「ねえねえおかあさん、聞いてよー!」と言いながら入れる家を失った、と言えばより正確だろうか。実家も「もはや生きていくのに必須ではないが、なくなると急に寂しく心細くなる」アイテムのひと
2024年11月23日 11:10
実家を手放した。正確に言えば、私が、ではなく、実家を相続した母が、珍しくきっぱりと売却を決断し、私を代理人に指名したため、代理で売買契約を実行してきたのである。お金がかかわることだと目がクワッと見開くのは凄い。親子でも、きちんと司法書士さんに入ってもらい、万全の状態で代理人になれて安心だったが、母には残念な気持ちもあっただろう。母としては、私か弟が引き継いで住んでくれたらいいのに、と願って
2024年11月17日 11:19
昨日やった手続きにともない、いくつかの書類を取り直す羽目になり、コンビニでマイナンバーカードを使ってばみばみと取得してきた。マイナカードにはこの1年あまり、色んな書類発行を楽にしてもらえたので、私自身はとても便利に、ありがたく使っている。そもそも、私がマイナカードに抱いていた奇妙な緊張感というのは、最初期の「たいへん危険なので、誰にも見せないように! 落とさぬよう厳重に保管して!」という、今思
2024年10月12日 12:14
実家に毎朝毎夕、風を通し、戸締まりをしに通っている。数日前から、固定電話に留守電が入っていると表示が出ていたのだが、既に両親の知人からの連絡はほぼ絶えており、たいていは不愉快なセールス系、あるいはいたずら電話が録音されているばかりだ。そうまでして80歳女子のパンツの色が知りたかったのか君は……と虚しい気持ちで消去ボタンを押したりするのが嫌で、ずっと無視していた。しかしまあ、まれに入る大事な用
2024年10月3日 11:44
朝から、お世話になっている不動産屋さんがお越しになった。探していた大事な書類を、わざわざ届けてくださったのだ。実家の売却方針含め、色々な話をして、今最高に推しているお菓子とヤベェ(天ぷら)粉をお土産に持ち帰っていただく。お互いにお菓子と家電が好きなので、お会いするたびに情報交換がはかどる。関係者でも何でもないのに、ダイソンの象の鼻みたいなドライヤーと、バルミューダのリベイカーを熱く語ってし
2024年8月11日 12:12
秋の気配といえばオフコース。長年好きな歌だが、別れ際の、しかも心変わりしたほうの「ぼくのせいいっぱいのやさしさ」とか知らんて。そういうときの優しさって、たいてい的外れか独りよがりやねんて。大人になるとそういうトゲッとした気持ちも芽生えたりする。でも、あのサビは本当にいい。つい口ずさんでしまう。それはともかく、朝夕の風に、わずかにヒンヤリが紛れ込むようになった。日中は相変わらず暑くて、墓
2024年7月9日 11:48
ジェルボール、ご存じだろうか。そう、洗濯に使うあれ。四角いブロック状の、洗濯機にぽんと放り込めばいいだけの便利な洗剤だ。あれが、我が家には600個近くある。これでも、日々使いまくって、だいぶ減らしたのだ。何故そんなことになったかといえば、原因はひとことで言えば母の認知症である。昨年、新型コロナに倒れるまで、母は「頻繁に洗濯し過ぎる人」だった。認知症がもたらす強迫観念が徐々に強くなり、洗
2024年6月4日 09:32
私の家には、実家から母が勝手に手配して運び込んだ和箪笥と洋服箪笥がある。和箪笥は、百貨店の呉服売り場の方の知識と抜群のセンスをお借りして、私に着られそうな着物と帯をセットにし、必要なだけを手元に残して、あとは手放した。それでも、二棹ある。洋服箪笥は、桐のものと、あとは父方の祖父母の家から来た、何の変哲もない、ただ古臭いものがひとつずつ。桐のほうはどこかで雨漏りの直撃を喰らったようで、かなり