2021年11月30日、私の夫は亡くなりました。 彼は50歳の時、多系統萎縮症という病気に罹りました。 小脳や脳幹が縮んでいくその病気は、彼の身体をどんどん動かなくしていきました。 歩くことが出来なくなりました。 手を使うことが出来なくなりました。 起き上がることも、座っていることも出来なくなりました。 排泄も困難になりました。 喋ることも、難しくなりました。 食べることも、出来なくなっていきました。 顔の筋肉も動かなくなり、表情も亡くなりました。
「あら、さっきお父さん来たわよ」 ちょくちょく買い物をしていた八百屋のおばさんに、そう言われたのは、私が三十代後半の頃のことである。 私はギョッとして 「な、なんでわかったんですか?」 と恐る恐る聞いた。 それは、私がおばさんに「これが私の父です」などと紹介したことはなかったからで、しかし、こういう人でしょ、と説明するおばさんの言う「お父さん」は、確かにうちの父であることは間違いないようだった。 そして、なんでわかったのか、というその問いに、おばさんは 「だって、ソ
「2024年11月20日、私は45歳になりました」 エッセイを書いていこうと思いました。 それで私はまず、自己紹介をしようと思ったのです。 しかし、いざしようとしても、私は紹介できるほどの何かを、持っているわけではありません。 「私は45歳になりました。 私には、何もありません」 それ以外、何もなくて、困ってしまいました。 でも自己紹介ナシに、というわけにもいきません。 それで「その何もない」ということを、お話しすることにしました。 少しお付き合いいただけれ