有頂天
ブラボーキングダムの攻略法は拍子抜けするほど単純なもので、一度方法を聞いたらすぐにできた。保留玉をコントロールして、強制的に連チャンさせる方法だ。その日は健ちゃんが7万勝ち、オレは10万勝った。二十歳のオレは有頂天だ。1ヶ月続けた300万勝てるやん、1年で、、シシシ。
パチンコの後居酒屋に行って、健ちゃんは言った。オマエ、明日からはあの店来るな。十三か三宮に行け。この攻略法まだ店にバレてへんけどそのうちバレる。2人でドル箱積み上げてたら目立ってバレるのが早まるはずや。オレはわかりましたと言ったが、あの店に未練があった。健ちゃんと一緒にパチンコするのは楽しかったし、カウンターには三田さんもいる。でも、毎日10万勝てるチャンスなんて今後の人生でそう簡単に巡り合えるとは思えない。
パチンコやってた時から気になっていることがあった。攻略法のコーチ料というやつだ。恐る恐る健ちゃんに聞いた。こんなオイシイ攻略法教えてもらって感謝しかないんですけど、コーチ料とかお支払いしたほうがいいですよねぇ、と。
ハハハ、せやなー、どうしよっかなー。まあ、いつか逆の立場になるかもしれんから、今回は要らんわ。オマエ出世しそうやから、未来のオマエに賭けとくわ。オレみたいになるなよ。と、最後に言った。
次の日からオレは狂ったように毎日ブラボーキングダムを打った。初当たりが遅くて勝ちが少なくなる日も結構あったが、それでも毎日平均8万円以上は勝っていた。大学生だと偽りやっていた家庭教師のアルバイトもすぐに辞めた。時給2,000円で割は良かったが、パチンコの勝ち額からしたらアホらしい。時間の無駄だ。
パチンコ狂いの日々は続いた。5ヶ月経ち、オレの勝ちは1,200万円を超えた。若さしかない二十歳の男にとって目の眩むような大金だ。稼ぎ始めの2ヶ月ぐらいは健ちゃんのところに状況報告しに行き、一緒に呑みにも行った。でも、3ヶ月を過ぎた辺りからあまり会わなくなった。会いに行っても健ちゃんが家に居なかったり、パチンコ自体をしてない日が増えてきたからだ。健ちゃんとて二十歳のガキと頻繁に会ってもそうそう話すこともない。世代が違いすぎるのだ。この1ヶ月は全く会っていなかった。
オレは、勝ちまくって大金を掴んだが、有頂天になっていた最初の時期はとうに過ぎ、義務的にパチンコをするようになっていた。同じ店で打ち続けると目立つので、ブラボーキングダムが設置されている店を探し、泊まりで遠征したりもした。儲ける為にやるというより、やらないと損する、つまり儲け損なうから、やり続けていたのだ。そして、疲れた。攻略法がバレないように神経を尖らし続けていたせいもあるだろう。攻略法はゴト(機器を使った攻略)ではないのだが、どこか後ろめたい事をしているのにも疲れたのだろう。
でも、オレはやり続けた。「あとで後悔しても遅い。こんなチャンスは二度とないのだ。」と自分に言い聞かせながら。