ようこそ、子どもの世界へ! 〜子どもにとって数はどのように見えているか〜
■子どもにとって「かんたんな計算」が難しい
小学校に入ってから苦労しないように、幼児期に計算練習をさせているお母さん方が結構いらっしゃるように思います。
他のお子さんに比べて、うちの子は・・・
なんてしょげてみたりする方、多そうです。
ですが、大人にとって「かんたんな計算」はかんたんに見えますが、
子どもにとっては「かんたんな計算」からして実はとっても難しいのです。
そのことは・・・
子どもの世界に入ってみれば、よくわかります。
では、子どもの世界へいっしょに入ってみましょう。
■子どもの世界に入る前の準備として
まずは、頭の体操から。
IQサプリ的な問題をどうぞ!
へ+は=ち ぬ-ろ=り に×は=と
です。
さて、
り÷ほ
の答は
何でしょう?
なかなかの難問です。
ヒントを出します。
<ヒント>
解く鍵は、カルタにあり!
どうでしょうか。
では、答を言います。
答は
「は」
です。
解説します。
ヒントのカルタは、いろはがるたのことです。
「いろはにほへとちりぬ」→「0123456789」
のように「い~ぬ」の各文字が「0~9」までの
それぞれの数字に対応していることにピ~ンとくれば、
へ+は=ち → 5+2=7
ぬ-ろ=り → 9-1=8
に×は=と → 3×2=6
に変換できます。
同様に
り÷ほ → 8÷4
したがって、8÷4=2となり、
2は「は」に相当します。
だけど多くの方は
「いろはにほへとちり」→「123456789」
と解釈しませんでしたか?少なくとも最初は。
なお、これは何かのパズル集から抜粋したパズルではありません。この考え方を、初期の算数教育のむずかしさにたとえた方がいらっしゃいます。
算数の計算を「いろはにほへと」になぞらえて、子どもにとっては本当はかんたんな計算問題はむずかしいんだということを説明していたサイトをいつだったか偶然見つけて、世の中には面白い考え方をする人がいるものだなあと感心した覚えがあるのです。
■親が子に計算を教える時
小学校に入ったとき、はじめての算数のつまづきが、たし算のくりあがりにあることはよく指摘されるところです。
小1の頃はまだ塾に行かない子が多いですから、お家でお母さんが教えていらっしゃることもよくあることですね。だけど、わが子に教えていると、つい感情的になってなかなかうまくいかないという話はよく聞きます。
私自身も経験ありますし、そうした経験は大なり小なり経験された方は少なくないのではと思います。
親子の間だから、そういうことは多少仕方がないのだけど、ここまでヒステリックになってしまうものなのかという場面を、かなり昔の話になりますが、偶然目にした(厳密に言えば「耳に」です)ことがあります。
20年ぐらい前のことです。
ある日の夕方。
近所から、子どもの泣き声とともに
お母さんの怒鳴り声が聞こえてくるのです。
お子さんの声からして、
幼稚園の年長さんか、それとも小学校の低学年かな。
あまりにも大きな声でしかっているので、近所中に聞こえました。
しかも、内容もはっきりと聞き取れます。
どうやら子どもに算数を教えているようです。
わが子の理解のなさに、もう切れまくっているという感じです。
「どうして、8+7がわからないの?
8にあといくつ足せば10になるか考えなさい。
2をたせば10になるでしょ!
だから、7から2をとって、8にくわえればいいのよ。
7から2をとると5、8に2をたすと10
あと5と10をたせばいいだけ。
さあ、答をいってごらん!」
「50?」
「馬○!!なんで、答が50なの!答は、15にきまっているでしょ!!!」
この間、子どもは大声で泣き続けていました。
この場面でのお母さんの教え方について、そんなにヒステリックになったら子どもの頭に入らないだろうと感想をお持ちになるでしょうが、ここで問題にしたいのはそのことではありません。
お母さんが子どもに教えている、その内容です。
本当に「8+7が簡単な計算なのか」ということです。
答はノーです。
しかも、こちらの想像に反して、子どもたちにとっては、おそろしくむずかしい世界なのだということがある思考実験によって明らかになります。
なぜ子どもたちにとって、大人にとって当たり前のたし算があれだけ難しいのか。
その謎が。
■子どもと大人では数字の見え方がちがう
まずここを押さえておかなくてはいけないのですが、「子どもと大人とでは数字の見え方がちがう」ということです。
子どもたちは当然のことながら、「数」や「数字」というものに生まれてはじめて接する瞬間があり、一方、大人にとっては、「数」や「数字」は生まれて何十年も接していますので、それぞれのイメージがしっかりと構築されています。
ですから、大人に子どもの気持ちになって想像することは数字の世界では不可能です。
けれども、先ほどのパズルの世界にあてはめて考えると、子どもたちがはじめて「数」や「数字」に出会ったときの困難さを体験することができます。
■子どもの世界に入る前に
それでは先ほどのパズルを使って、子どもの数の世界を体験してみましょう。
その前にまず約束事の確認です。先ほどの対応関係を思い出してください。
いろはにほへとちりぬ
0123456789
これでは10がありません。10以降は
10 11 12 13 14 15 …
ろい ろろ ろは ろに ろほ ろへ …
と続きますが、この読み方だと、実際の数字の読み方と対応していません。(10は1「いち」と0「ぜろ」が並んでいるけれど「いちぜろ」と読むのではなく、まったくちがう読み方で「じゅう」と読みますね。このことひとつとっても、子どもの頭を混乱させる要因となります)
だから、10以降は読み方を変えなくてはいけません。
ということで、10は「ろい」ではなく、(何でもいいのですが)ここでは「みゃあ」と読むことにします。
ということは、
11(じゅう・いち)は「ろろ」と書きますが「みゃあ・ろ」と読み、
27(に・じゅう・なな)は「はち」と書きますが「は・みゃあ・ち」と
読むことになります。
■ようこそ、子どもの世界へ!
さ、準備が整いました。
子どもの世界の算数を体験してみましょう。
対応表は見ないでくださいね(なるべく子どもと同じ状況に置きたいので)。あくまでも「いろはに」が「1234」にたいおうしていることを頭に入れて、考えながら計算してみてください。
(注:「い」は0ですので、「ろ」から数えることがポイントになります!)
くりあがりのない超かんたん問題に挑戦してみましょう。ぜんぜん簡単ではありませんが。笑
問 「に」+「へ」
答を出してみてください。
しつこいですが、対応表は見ないでくださいね。
どうでしたか?
答は出ましたか?
想像以上に大変だったと思います。
では、答です。
答 「り」
まず、多くの方が「ろはに…」と唱えながら(「い」は0でしたから、「ろ」からスタートですよ)、指折り数えて、「に」は3で、「へ」は5で、だから、答は8。え~と、8はと…(指折りながら)、
「り」だ!
という流れで解かれたのではと想像します。
たし算を習いたてのお子さんが、数を唱えながら指を折って数えるのを
よく目にしますが、その理由がわかりますね。
同時に、数字をきちんと順番通りに言えるということがどんなに大切であるかということも。
(おとなは「(い)ろはにほへと…」を覚えているから、この状況設定は「数を唱えることは苦にしていない子ども」ということになります)
実は、子どもの世界の体験は、これでもまだ十分ではありません。
大人は途中で、「に」を3に、「へ」を5に変換して、
自分がこれまでたくわえた知識を利用して、簡単に8を出します。
子どもにはそれがありません。
まず、「ろはに」と数えていき、
それからまた「ろはにほへ」と唱え、
また最初から「ろはにほへとちり」と指を折りながら唱えるしかありません。
とにかく順序を追うしかないのです。
気が遠くなりますね。
単純な繰り上がりのないたし算で、この難しさです。
さきほどの子どもに算数を教えていたお母さんの問題を思い出してみてください。
どうして、8+7がわからないの?
「8+7」は繰り上がりがあるので、もっと大変です。
そればかりか
子どもたちには、
これから
繰り下がりのあるひき算
かけ算
わり算が
これでもかこれでもかと
仮面ライダーに出てくるショッカーの黒子のごとく押し寄せてくるのです。(例えが古過ぎました (^^;))
大人にとって当たり前のことが
子どもにとっては当たり前ではないことがよくわかりますね。
小さなお子さんの「数に対する認識」はこんな感じです(また、このことから小学校の高学年で算数の苦手な子どもの「数に対する認識」は、どのようなものであるかがある程度想像することができるかもしれません)。
もちろん数の感覚がしっかり育っている子は、大人の感覚に近くなっているので、簡単に理解できるのです。
だけど、ふつうはまだ数のイメージができあがっていないうちに算数の世界に入っていきます。算数の計算がむずかしくて当たり前なのです。
時々「できる子」がいたりするものだから、わが子と比較して「なんでうちの子はこんなかんたんなのもできないの?」と感じたりするだけなのです。
■子どもは大人の説明をこのように聞いている
それでは最後に、先ほどのお子さんが、お母さんの説明を
どのように聞こえていたか体験してみましょう。
いいですか。再び、子どもの世界へと旅立ちます。
レッツ・ゴー!
「どうして、「り」+「ち」がわからないの?
「り」にあといくつ足せば「みゃあ」になるか考えなさい。
「は」をたせば「みゃあ」になるでしょ!
だから、「ち」から「は」をとって、「り」にくわえればいいのよ。
「ち」から「は」をとると「へ」、「り」に「は」をたすと「みゃあ」
あと「へ」と「みゃあ」をたせばいいだけ。
さあ、答をいってごらん!」
「へみゃあ?」
「馬○!!なんで、答が「へみゃあ」なの!
答は、「みゃあへ」にきまっているでしょ!!!」
どうでしたか?
算数の苦手な子は、
学校の先生の説明を
家でお母さんの説明を
おそらく
こんな感じで聞いています。
いやあ、算数って、本当に難しいですね♪