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佐古田に出会うために

オーストラリアで出会った映画オタクがいる。

ブリスベンのラジオ局で彼とは出会い、僕が考案した新しい映画番組の制作及びパーソナリティにも携わっていただいた。


彼とある夕食を共にした夜

こんなことを述べていた。


「絶対ね、『これは俺じゃねぇか!』っていうくらいキャラクターと自分が重なってぶっ刺さるような作品があるんだよ!」


そんな彼の最もぶっ刺さった作品が、ヴィンセント・ギャロ監督作品の『バッファロー'66』

孤独で不器用、だけども深く内面を覗いてみると、純粋で優しい。

そんな主人公のビリーと彼の性格が大きくシンクロした結果、「これは俺だ!」となったらしい。

そこまで細かく他人に語るのは野暮だろ、などと思ってしまったのだが、言わんとしていることはとても伝わってきた。


そんな話を聞いて、思考を巡らせる。


彼にとっての『バッファロー'66』は、僕にとってなんだろう。


最近、その答えが出たような気がする。

これだ。

映画ではないが、佐藤多佳子さんの小説、『明るい夜に出かけて』である。


オーストラリアで出会った脚本家の方から何とはなしに「これ合うと思うから読んでみ」と渡されたのがこの本。

あらすじも内容も全く知らないまま読み進めていったのだが…


これほどまでに今の自分に刺さる作品はないように思った。


最近になって改めて読み直したいと思い、数週間前に電子書籍版を購入。昨日読み終えたところである。


主人公の富山は、ある事情により大学を休学してコンビニで働いている20代前半の男。

接客が苦手、人間不信(コンビニバイトのライングループに入っていない)、交際経験はあるものの、性交渉はなし。

そして、大の深夜ラジオファンの、ハガキ職人である。

ラジオに対する熱は間違いなく自分より富山が上回るものの、僕も海外にいながら毎週ANNのポッドキャストを聴いているほどにはラジオ好き。

そして特に人間関係や異性事情に関しては「これは俺か?」となってしまうほど自分だった。


そんな富山は、コンビニに来ていた癖の強い女子高生、佐古田と遭遇することになる。

会話のキッカケは、富山が目にした

佐古田のカンバーバッチだ。


カンバーバッチ…

伝説ともいえるラジオ番組『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』にて特に素晴らしいメールを送ったリスナーに対して贈られるアイテムである。作品ではこのアルピーANNの番組内容が色濃く描写されているのも特徴だ。

出会うべくして、出会ったともいえる二人の関係が、更には富山のコンビニの同僚で歌い手の鹿沢、そして幼馴染のラジオ好き永川にも影響を与え、互いの世界を広げていく。


映画や音楽と違い、小説は目に入る言葉のみで伝える作品である。その分一つ一つの言葉が持つエネルギーは他の種類の作品より大きいように感じる。

そんな言葉から、多くのメッセージを受け取った。


恋人同士だからって、絶対ハグしたりキスしたりしなくていい。

色々なものを見て、聞いて、そして世界を広げて、豊かにする。

気づいた時から、いくらでも、やり直せばいい。


この作品から列挙できないほどのメッセージを受け取ったが、

この物語の中で僕が一番好きな部分は、

一人の作った作品が他のクリエイターにも影響を与えていき、また新たな作品が作り出されていくところである。


パフォーマンス同好会に所属する佐古田の演劇(タイトルは本と同じ『明るい夜に出かけて』)を観て何か心に残るものがあった主人公の富山。

富山がそこから感じた言葉を書き留めたものをヒントに、鹿沢はオリジナルの楽曲を作成する。

そして事の発端は、ラジオ番組。これも人に笑いや楽しさを与える作品だ。

こういった相乗効果ともいえるような形でお互いが感化され、表現者として上昇していくキッカケが作り出されていく様は、フィクションだと分かっていながらも羨ましく思った。



自分も、誰かとこんな形で繋がりたい。

今ある繋がりでこんなことをしてみたい。


今自分にできる表現は何だろう。

落語、執筆、スマブラ?、ちょっとだけ動画制作…

機会を見つけて、できることをやる。


タイミングが来たら、いざ行動。

できることあらば、今行動。

自分にとっての佐古田に出会うために。

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