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アップサイクルとリサイクルと修理の市民活動@ベルリン

欧州ではSDGの一環として、修理をする権利が最近の社会テーマとなっています。電化製品が壊れて修理しようとしても、新しく買ったほうが安いよと言われたり、部品がなくてもう修理できないと言われてたりするのはよろしくないので、なんでも修理ができるようにしようという思想です。その根本には、製品の寿命が長くなればゴミが減り、同時に新製品を作り出すエネルギーも節約できるからSDGだよねという考え方があります。

具体的には、2024年4月に欧州議会で修理をする権利に関する指令が可決されました。細かいことは欧州各国がこれから詰めていくようですが、修理(可能)期間がのびたり、修理の手続きが簡単になったりするようです。

それに先駆け、いくつかの国では既に独自の修理対策(?)を進めています。フランスは、特定の電化製品を「修理のしやすさ」という指標と共に販売することを義務付けています。オーストリアでは、期限つきではありますが、電子機器の修理費用の半額を政府が補助するシステムが導入されました。

ドイツでは何もないのかなと思っていたら、先日面白い市民活動に遭遇しました。その名も「Repair Café」で、壊れた電化製品を修理してくれるそうです。ベルリン各地でそれぞれの市民グループが活動しています。

そう言えば、うちに見た目はいいが動かないラジオがあるので、早速持って行きました。夫が自分で直すからとのみの市で買ったのに、結局外カバーをはずすのにも手こずり、修理を諦めて置き物になっていたラジオです。役立たずのイケメンみたいな立ち位置にあるラジオでした。

レトロな見た目がいい味を出しているのですが、うんともすんとも言いません

私が勝手に想像していたのは、Repair Caféでラジオを渡して一定期間後に修理されたものを引き取りに行くというシステムでしたが、そういう流れではありませんでした。その場でボランティアが故障個所を特定し、修理できそうなら修理をします。持ち主もその場にいないといけません。会場では、早速手が空いている人がラジオをばらして中を見てくれました。

ばらされたラジオ。見ていてまた組み立てられるのか不安になりました。私なら無理だわ。

ラジオを置いて帰ろうと思っていたのに、ずっとラジオの横にはりついていなくてはいけません。最初は様子を見ていたのですが、故障個所がなかなか見つからないので飽きてしまいました。そしてボランティアの人も嫌になってしまったようで、2番目の人にバトンタッチします。3時間くらいかけて、とりあえず部品がゆるいところが一個所あってそのせいで電気が通らないことが判明し、そこをはんだ付けしてくれました。

それでザーザーと音が出るようにはなったのですが、肝心の電波をキャッチできません。しかしその日はそれで時間切れになってしまったので、いったんはラジオを持ち帰りました。次回までに夫が配電図を入手して、それを実物と見比べながら、故障個所を探していくことになりました。ラジオは1970年に製造されたものなのですが、配電図がまだ入手可能なことにも驚きます。

機械に興味も関心も持てない私は暇を持て余して、別の人たちとおしゃべりを始めました。ベルリンの人たちは普段わりに不愛想な気がしますが、ボランティアの人たちは全員フレンドリーで、目が合えばニコッとしてくれるし、話しやすかったです。

このRepair Caféはボランティアで運営されていて、誰でも壊れた電化製品を持ち込んでよいそうです。それをボランティアが無料で修理してくれます。電動ドリル、トースター、モニター、体重計、卓上ランプ、USBケーブルなど、様々な電化製品が持ち込まれてその場で解体・修理・組み立てがされていました。もちろん修理できなくて、「捨てるしかないわ」というものもありますが、みんな目の前で自分の機械がばらされて何がどうダメかしっかりわかるので、納得して帰っていきます。

会場はこんな感じ。ボランティアの一人が「創造的カオス」と表現していました

会場には数台のミシンも置かれていて、針仕事をしている人達もいます。その人たちもボランティアで、衣類のお直しを一緒に考えたり、かっこよく縫い直したりしてくれるのです。ミシンも糸も無料で使わせてもらえますし、使い方も丁寧に教えてくれます。

右の赤いのがどっかで安く買った中古の穴だらけのセーターで、それをめちゃくちゃかっこよく直していました

私はこの前、皮のコートに染みをつけてしまって絶望していたのですが、相談したらその上に刺繍してカバーできるよとアドバイスされたので、次回はそのコートを持ち込むことにしました。

空き缶のプルトップでアクセサリーを作っている女性もいました。スペインで見かけたので、自分も真似して作り始め、今は学校で子供たちを相手にレクチャーまでしているそうです。

これだけの数のプルトップを集めるのがまずすごいです。左の組まれたやつでベルトを作ったり、ブレスレットにしたりするそうです。

その方が私にプルトップの組み方を教えてくれたのですが、レクチャーの途中で別の女性が話しかけてきて「私も実はそれを集めてるのよ。娘がね……」まで発言したところで、最初の女性が「ごめんなさい、今私はこの人に組み方を教えているところなの。だからあなたの話を聞く時間ではないの。あなたのお話を聞いていると、私がどこまで説明したかわからなくなって混乱するわ」とぶった切ったので、ドイツ人すげーと驚きました。私だったら話なげーよと思いながら最後までにこにこと傾聴してしまうところですが、自他の区別がはっきりしていると、ここまで明確なお断りができるということなんでしょうか。いや、ドイツにしても相当はっきりきっぱりしている気がします……。自分の話をしようとした女性は「そうよね~ごめんなさい」とか言っていましたが、どっかに行ってしまいました。いい気分はしなかったと思います。

Repair Café初体験でしたが、ここはリサイクル活動だけではなく、市民のコミュニティの場としても機能しているなということを強く感じました。環境問題に強い関心をもって活動に参加している人ももちろんいると思いますが(プルトップ女性のように)、特に男性は色々な機械をいじるのが好きで参加している人が多いように思えました。孤独は現代人の健康を蝕み、1日15本の喫煙と同じくらいのダメージを与えると言われています。でもここに参加している人たちに限っては、そういう心配もいらなさそうでした。

ベルリン在住でうちに壊れた電化製品がある人は、ダメ元でRepair Caféに持ち込んでみたらよいかもしれません。英語でも対応してくれるのではと思います。私は次回コートと一緒に参加して刺繍を習うつもりです。ラジオについても進展があれば続報を書きましょう。

参考リンク:ベルリンのRepair Cafésの拠点一覧

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