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エズ村がテーマパークみたいになっていた

観光バスが5台も停まっていた時点で気づくべきだった。新設ホヤホヤ地下5階建ての駐車場も混んでいたのになぜ気づけなかったのか。

車道沿いにあった数十台分の駐車場がいつの頃からか閉鎖になり、ずっとずっと一生続くんじゃないかと思われる工事が延々行われていた。今もまだ一部工事中だが駐車スペースはオープンしていたのでなんとなく、物珍しさに後押しされて入ってしまったのだ。


9月のよく晴れた休日。犬を連れてモナコが見下ろせる崖の上の公園へ散策へ行き、近くの村で超ローカルな村祭りを見物しがてらランチをした。

青い空と海が清々しい
野菜たっぷりのポークソテーとモツ煮込み

時間をかけてランチをした後、その日は本当にあまりにも天気の良い日でそのまま帰宅するのはもったいないと、どこかへ寄り道しようと考えているときに道路表示に出てきたのがエズ村だった。

帰宅路にあるこの村を通過しかかったところ、ずっと工事で閉鎖していた駐車場がオープンしているのに気がついた。へぇ〜とぼんやり眺めながら進んでいたら、なんとなくそのまま入場してしまった。

とまあそんな流れで、久しぶりにエズ村を訪れることにした。


ガイドブックによるとエズ村は『鷲の巣村』とも呼ばれており、断崖絶壁の山の上に作られた村で眺めがとても良い。ただその地形から平坦な道はなく、山道に沿って作られた古い村なのだ。

石畳が敷かれた細い坂道や階段をずっとずっと登ると展望台と有料植物園がある。だがそれ以外に見どころらしいものはない。高級ホテルの敷地内へ入れば素敵なプライベート空間が楽しめるらしいがそれには予約を取らなければならない。そもそもこの村自体が小規模でこじんまりとしているから、景観以外の何かがあるわけではない。

前回訪れたのはいつのことだったか?確か5年以上前の寒い季節で風が強かったのを覚えている。それでもすれ違うのは観光客ばかりで、生活の匂いが全くしなかった。多分この村に実際に住んでいる人はいないのだろう、そう感じたのを思い出した。


駐車場を出て村へ登る坂道へ出ると、土産物屋の前に人溜まりが出来ていた。その時点で人が多いことに気づいてはいたが、そのまま犬を連れて登り始めた。

高級ホテルの入口を通り過ぎ、教会のある場所まで辿り着くともうそこには狭い歩道しかなく、気がついたら前方後方どちらにも人がぎっしりと詰まっていた。

まるでアトラクションのために列を作って並んでいるようだ。

しかしこの先にアトラクションはない。確か有料の植物園は犬の立ち入りが禁止されていた。

私は一体なんのためにこの行列に並んでいるのだろうか?教会を通り過ぎたあたりで疑問が湧いてきた。上り道にも下り道にも大勢の人が列をなしていて、とにかく前に進まなければならない状況に陥っていた。

村は昔ながらの石造りでできており、アーチ型の門があったりちょっとした水飲み場があったりしてフォトジェニックなスポットがたくさんある。なのに人の波に押されて景観を楽しむ余裕などありゃしない。

私はついさっきまでもっと高い場所にある実際に今でも人が住んで生活をしている別の古い村にいた。窓辺には洗濯物が干してあり、家の入り口には玄関マットが敷かれている。人通りはまばらだが子供が遊んでいたり猫が優雅に日向ぼっこをしているような、そんな村で半分朽ちた壮大なローマ時代の遺跡を見た後だった。

反してこちらは騒がしい。フランス語以外の言語をワイワイ話しながら登ったり降りたりする人たちに紛れ、アトラクションの順番待ちをするがの如く並んでいるうちに、そこにあるもの全てが作り物のような気がしてきた。

いや、もちろん昔々に人の手で作られた『作り物』で間違いはないのだが、そうではなくて、観光のために作られた『偽り物』のような、なんだか変な感じがした。

そう、まるでランドやシーみたい。

生活感がまったく感じられないこの村は観光客で溢れかえり、まさにディズニーランドやシーのような場所と化していた。


一番上まで行ったところで私には何もすることがない。中腹あたりまで登ったところで迂回出来る道へと進み、そのまま降りることにした。もちろんそこにも観光客がわんさかと詰めていた。

教会の脇から駐車場のある道路を見下ろすと、少し離れた徒歩5分ほどの場所にも広い駐車場があり、3台の大型バスが停まっているのが見えた。

あちゃー。こんなにもたくさんの人が今この瞬間にこの狭い村を訪れているのか。そりゃぁ混雑するはずだ。

妙に納得して駐車場まで戻った。1時間弱の滞在であった。


日はまだ高い。

特に何もすることがなかったので砂浜のカフェで裸足になってリンゴジュースを飲んだ。

日差しは強くジリジリと肌を焼くが、冷たい海風のおかげで暑さはそれほど感じない。椅子の下で涼む犬の鼻先に水を入れた器を置き、日が陰るまでまったりと休んだ。

波打ち際近くに並べられたロングチェアーでは水着を着た人たちが晩夏のひと時を楽しんでいる。みんなこんがりと日焼けをして満足そうだ。

帽子と上着で日焼け対策をした私は、背後に連なる高い崖を見ながら、その日の出来事を思い返してみた。本日の学びは、観光シーズンにエズ村へ近寄ってはならない、ということ。

確かにエズ村は特殊な村だ。だが似たような村は周りにいくつもある。多分アクセスが良いのと麓にフラゴナールの大きなブティックがあるから観光客が集中してしまうのだろう。


人が多すぎてわちゃわちゃしたので一枚も写真を撮っていないことに気づいたが、時既に遅し。せっかくこうやって文章にしたのだからできればその様子を画像でお伝えしたかった。むむむ、残念。


タイトルの写真はエズ村よりも更に上にある公園から撮ったもの。湾に出ているボートやヨットが小さくておもちゃみたいに見える。

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