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台所の金槌
今、ウチの台所には金槌が置いてある。ちなみにリフォームとか修繕とかそういう類の必要性があるわけではない。
昔から早起きが苦手で、遅刻をせずに学校へ辿り着くためには朝ごはんを食べている余裕はなかった。朝ゆとりのある生活ができるようになってからも、起床してすぐに何かを食べようという気にはならなかった。水を飲むのが精一杯。起きて暫く時間が経ってから昼食と合わせたブランチを食べる習慣ができたのはアメリカで生活をし始めてからだった。
自分が低血圧だと知ったのは大人になって健康診断を受けるようになってから。ある時私の血圧を測ってくれた年配の看護師さんが「あら」と声を出した。「え?」と言って彼女の目を見ると、「あなた血圧相当低いわよ」と言われたのだ。
その時、早い時間の予約が取れなかったので血圧を測ったのは午前11時を過ぎていた。咄嗟に「何も食べてなくてお腹空いてるからかな」と言い訳をしたが、普段から朝ごはんを食べる習慣がないのでかなり適当な言い訳だと言った先から気まずい気持ちになった。
若い頃は低血圧と言っても寝起きがマジで辛いことと疲れやすいこと以外にこれといった支障はなかった。エネルギッシュにガツガツ行動するタイプの人とは仲良くなれないとか、時間に追われてあくせく動き回る生活ができないとか、そんな程度の不便さしか思い当たらない。
ところが年齢を重ねると不調がどっと押し寄せるようになる。特に冬の午前中の立ちくらみはやばい。
こりゃいかんと焦って最近お腹が全く空いていない朝に食べ始めたのがクルミ。朝少しでも何かをお腹に入れておけば立ちくらみは軽減する。
なぜクルミなのか?それは思いつき。買い置きができてたくさん食べなくても栄養が摂取できるものはないかと近所のスーパーを物色して見つけたものだ。殻付きのものをグラムで少量づつ購入している。
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ということでウチの台所にある金槌は毎朝クルミをかち割るために使っているものだ。
毎朝ガツンゴツンと卓上でクルミの殻を割る日々を過ごしていると、くるみ割り機が欲しくなってくる。ところが欲しいと思って探し始めるとこれがなかなか見つからない。
クリスマスマーケットで装飾が施されたゴージャスなくるみ割りを見かけることはあるが、私が欲しいのはもっとシンプルで機能的な器具の方。
そんなこんなで2週間ほどが経った。ウチの台所には金槌があるから特に積極的に探していたわけではない。あったら欲しい、くらいな気持ちでいた。
そしたら今日、散歩の途中でふらりと入った雑貨屋さんで見つけた!
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木目と黒でとてもスタイリッシュなデザイン。
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簡単に割れた。しかも片手で一握り。
卓上で金槌を使うと振動が足元まで響いてガツンと音がするが、このくるみ割り機は手元でパリンと音が弾けてとても手軽にクルミが割れる。
右手にくるみ割り機を握ったまま卓上に置いてある金槌を見つめると、何だか少し哀愁のような寂しげなオーラが見えるようだ。
お役御免。。。暗い棚の中の道具箱に戻してくださって結構ですよ。そんな声が聞こえた気がした。