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サニーじゃないサイドアップ
なんでお前のサニーサイドアップはサニーじゃないんだ?
突然夫がそう言い放った。
どゆこと?サニーじゃん、ちゃんとサニーサイドがアップになってんじゃん。
そう言い返すと、夫は首をうなだれて左右に振った。ノンノンノンノン。
サニーサイドアップとは片面だけを焼いた目玉焼きのこと。
アメリカでは両面焼きと片面焼きがあり、焼き方によって名前が違う。日本で主流の目玉焼きはサニーサイドアップと呼ばれ、黄身がお日様のように見えるからそう名付けられたらしい。
私が初めて作った料理は目玉焼きだった、気がする。多分。もしかしたらスクランブルエッグだったかもしれないが、フライパンに油を引いて卵を割り入れたのが最初の料理だ。
小学校へ入った頃にはもう作っていた記憶がある。どこで誰に教わったのか全く覚えていないが、私のレシピは、
フライパンを火にかけ油を引く
卵を割り入れる
塩をふりかけて白身が少し固まってきたら水を少々入れて蓋をする
黄身が良い加減になったら火を止めて皿に盛る
もう何十年もこのレシピで目玉焼きを作っていた。結婚してからもずっとこのレシピだったのに、今さらサニーじゃないってどゆことよ?
夫を問い詰めると、どうして黄身が白いのだ?と逆に質問をされてしまった。
私の目玉焼きの黄身が白いのは、水を入れて蒸し焼きにしているからだ。そう堂々と胸を張って夫に言うと、「なぜ水を入れるんだ?」とまた質問が返ってきた。
なぜって。。。
水を入れて蒸し焼きにした方がフライパンに焦げ付かず、洗い物が楽なのだ。黄身は確かに上を向いているし半熟に仕上げている。黄身の表面が蒸されて白くなってしまっているだけなのだ。
そう説明すると、フライパンが焦げないように焼けばいい、と夫は言い、今から自分が作るからよく見るように、と鼻を膨らませながら楽しそうにフライパンを手に取った。
普段は全く料理をしない夫がフライパン片手に偉そうに講釈を垂れる。
焦げるのが嫌なら弱火にすればいい。油もしっかりと引く。そう言って伝授してくれたサニーサイドアップの作り方がこちら。
フライパンを弱火にかけ、油をたっぷりと入れる
卵をそっと割り入れる
弱火でじっくりと焼く
じっくりと焼く
黄身の様子を見ながらじっくりと焼く
白身と黄身の境目がまだドゥルンっとした状態で火を止め、皿に盛り付ける
塩をかけて食べる
夫の作った目玉焼きの黄身はくっきりと鮮やかな黄身色をしている。火が通っているかどうかは疑問だが、まさにサニーサイドがアップしている目玉焼きだった。
ドヤ顔をして皿に盛り付ける夫には悪いが私は白身のドゥルンっが苦手だ。
もうちょっと焼いてもいいかな?そう夫に言うと、私の分の目玉焼きを残したままフライパンをコンロの上に置いた。
夫の指示通り、弱火でじっくりと差し水も蓋もせずに焼いてみる。黄身と白身の境目に火が入って固定するまでに1分ほどかかった。
私が目玉焼きを作る時は強火で素早くチャッチャと作ってしまう。フライパンが予熱で熱くなっていれば、卵を割り入れてから仕上がるまでに1分とかからないだろう。
だが夫の言うサニーサイドアップを作るには時間がかかる。火加減にも気をつけなければならない。
ううう、面倒だ。
料理好きで盛り付けや見た目にこだわる人ならキレイに仕上げる努力をするだろう。でも私は好きで料理をしているわけではない。味に変わりがないのなら、素早くできるやり方を選んでしまう。
なぜ今突然、夫が目玉焼きの焼き方にこだわったのか?
白いモヤのかかったサニーじゃないサイドアップを食べることに嫌気がさしたのか?
夫の心情を鑑みるも、なんだかよく分からない。
よく分からないけど、作り方を伝授されたからにはそのやり方で作らざるを得なくなってしまった。
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目玉焼きの難易度が急にアップして、得意料理のレパートリーが減りつつある今日この頃でございます。