冬のはじまりを告げる音
思いがけずくしゃっ、と踏んでしまった落ち葉にすでに晩秋であることを実感させられる。今年の秋はいつ始まり、いつ終わってしまったのだろうか。日本の四季がどんどんなくなっていっていると言われている昨今、特に春と秋との別れがとても早くなってしまっていると感じている。桜が咲いたり、金木犀が香ったりするくらいでしかわかりやすく中間の季節を見つけることが難しかったような気がする。
枕草子の四季の移り変わりを思い出した。そのまま「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて…」と思い出せる限りのところまで脳内でとなえてみたりしてみた。
そのまま歩いていくと先程の落ち葉があった場所の近くにある木に何やら不自然に揺れる葉を見つけた。二つ折りにされたような葉がいくつか舞っている。みのむしだとすぐに気付いた。みのむしは蛾の一種で木の葉を使って巣を作り冬眠し、成虫になると出てくるという習性を持っている虫のことだ。このみのむし達の冬眠の期間も長くなってしまっているのだろうか。しばしゆらゆらと揺れる葉を見届けた後、再び歩き出す。
それまでそよそよと吹いていた風が一瞬だけ強くなった。
もうすぐ冬だ、となんとなく沈んだ面持ちで考える。雪が降るのは楽しいけど次の日に道路が凍ってしまっていることが好きでないのだ。日なたにある道は早めに溶けるからいいものの、日陰にある雪はなかなか溶けてくれないのが悩みの一つだ。運が悪いことにうちの周りにはそんな道が多い。だからそんな日にはかなり遠回りをして歩いていかなくてはならなくなるのだ。
どうも私には冬になると「春になったら」と考え始めてしまう癖があるらしい。まずは早咲きの桜が咲くからそれを見に行って、近所の桜が咲けばそれを見に行って、もちろん桜餅も食べるんだと空想する。それくらいに春に咲く桜が好きである。とかいいつつ、やわらかい取り立てのたけのこやすっと伸びた菜の花や、少し苦さの残る初がつおも好きだ。それに春キャベツもふにゃっとしておいしい。
だけどそんなことを言い始めると、じゃあ冬は鍋物がしみるし、おせち料理だったりでおもちは食べるし、おでんなんて絶品だよねとなってしまう。要するに食べ物は一年中おいしいものがそれなりにあるのだ。じゃあ食べ物では優劣はつけられないんだな。そんなことを思いつつ、スーパーマーケットで自分なりによりすぐった野菜をぽいぽいとかごに入れていく。そろそろおでんの予定があるのではんぺんやしらたきなんかも忘れずに。
スーパーマーケットを出ると日差しが強くなっており、着ていたコートの前を開けた。見上げてみれば空は雲一つなく、ただただ澄んだ綺麗な青がさーっと広がっていた。うーん、とひとつ伸びをして我が家へと向かう。買い物のようでただの散歩のようなものだったが、偶然踏んでしまった落ち葉から思ったよりもたくさんのことを考えた自分にマスクの下でふっと笑ってしまう。
そんな冬のはじまりの話。
帰ったらココアでも飲んでほっとしよう。