『だれもいない温泉』わたしの読書
ご存知でしょうか、作者の千葉省三。(1892年明治25年~1975年昭和50年)
栃木県の児童文学作家です。
小学生の頃の私の好きな作家でした。
母が揃えてくれた『千葉省三童話全集』、その中にある『だれもいない温泉』というのが私が一番好きな作品です。
主人公の子供が夏のある日お父さんが地図で見つけた小さな温泉場を訪ねる話です。
バスに乗り、山あいのバス停で降りて歩き、たどり着いた温泉場には古い家が一軒だけ、そこが目的の温泉場でした。
ところが留守で、「勝手に入ってください。」と書き置きがある。
そして二人で湯につかり、休憩してお金を包んで帰った。
帰りのバス停までの道で、そこのおばあさんに二人は出会います。
一人息子が出征し、ご主人はたまたま里に降りているから留守にしてすまないとおばあさんは詫びます。
そのあとの道すがら、主人公の子供は「また来ようね。」とお父さんと約束します。
それだけの話なんですが、ずっと心に残っています。
そこから想像出来る風景もさることながら、鍵もかけず客を受け入れる飾らないこの温泉場にいつか行きたいと子供心に私も思いました。
とても短い短編です、だからなおさら私の想像は膨らんだのでしょう。
その頃にはあって今無いなにかがそこにはあります。
いつまでも読み継がれてもらいたい作品であって作者です。
まだ小学校に上がる前、母は障がいのある兄のために昼寝前、夜の就寝前にいつも本を読んでくれました。
裕福ではない家だと子ども心にもわかっていたのですが、本にかける金には違う財布があったようです。
たくさんの児童書のなかの千葉省三童話全集が好きでした。
ずいぶん処分した紙の本ですが、半年前の引っ越しの片付けがまだ済まぬまま、この全集だけは捨てることが出来ず自室の段ボールのどこかでまだ眠っています。
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