女性部下を怒らせた話、そして教訓
こんにちは。キャリアコンサルタントの東公成です。
チームを率いるリーダーにとって、メンバーのモチベーションを維持すること、高めることは重要な知識でありスキルです。
それを学ぶ方法はいろいろとありますが、経験上、失敗から学ぶ方法は効果的だと考えています。自分の失敗でも人の失敗でも、それに痛みを感じ「二度と経験するか!」と思うからです。
今回から何度か、私自身のしくじり経験をシリーズで紹介し、私が学んだ教訓を紹介していきたいと思います。
とくに「女性部下とギクシャクしがちたが、理由がわからない」「それが自身の課題になっている」という上司の方は参考にしていただけるとうれしいです。
「相談なのに、なぜダメ出しをされるの?」
かれこれ20年ほど前の話です。当時の私は、課長として小さなチームを率いていました。
ある日、女性の部下から声をかけられました。
「あずまさん、ちょっと話を聞いて欲しいんですけど」
上司としても男性としても、女性からこんな風に声をかけられて悪い気はしません。むしろ、頼られて嬉しかったのです。
会議室で彼女から話を聞きました。
「実は、自分のスキルがこのままでいいのか不安で、これからどうして行こうか悩んでいるんです」
そう切り出されました。部下から信頼されて相談を持ちかけられたことに、ちょっといい気になりました。そして、
「今のデータ分析の仕事も楽しいんですけど、基幹システムの知識も…」
そう言いかけた彼女の言葉を私はさえぎりました。
「基幹システム? でもHさんはさ、これまで製造業で働いたことはないでしょう。経験がないのに基幹システムの仕事なんてできると思う? 私はまだ無理だと思うなぁ。あと2年くらいデータ分析やって、そこで覚えないと無理だよね」
「え、そうですか? これまでデータ分析の仕事をやってきて、流れはわかって…」
「いやいや、Hさん。ちょっと待って。私から見たら、Hさんは甘いよ」
また、さえぎり。
「そうですか?」
「まぁ、余計なことかもしれないけどさ、Hさんの書く文章もビジネスの品質には今ひとつ足りないんだよね。基幹システムの仕事にはそれなりの文章力も求められる。もっと文章修行をしようよ」
「わかりました。こんなにダメ出しされるとは思いませんでした。男性ってすぐにアドバイスしたがるんですよね。私は話を聞いて欲しかっただけなのに。もういいです。ありがとうございました」
彼女は怒って会議室を出て行ってしまいました。
会議室に残された私は、自分のやらかしにも気づかず腹を立てていました。
「なんだよ、呼び出しておいて。こんなに失礼な人とは思わなかったよ」
*
1ヵ月後、Hさんは基幹システムチームの社内公募を受け、異動が決まりました。そして5年後、利用部門の絶大なる信頼を得て、基幹システムチームのエキスパートへと成長したのです。
彼女の活躍に比例して、あのときのイタイ対応は、じわじわと私にとっての黒歴史となっていきました。
しかし、このあと私自身も管理職として経験を積むことで、この経験から次のような教訓を得ることができました。
【教訓1】 部下の“性別”を意識しすぎない
部下はチームメンバーの1人であり、チームで仕事をするために存在します。そこで重要なのはスキル、知識、経験です。性別ではありません。
Hさんから相談を受けたときの私は、「女性からの相談」という認識に引っ張られて、カッコつけよう、いいところを見せようとしていました。
性別はその人の基本的な属性ですが、性別で仕事をするわけではありません。なのに、当時の私はどうも性別を意識しすぎていました。
【教訓2】 “上司のすごさ”を誇示するのは不毛
「女性部下にいいところを見せよう」という気持ちがあったがために、「話を聞いて欲しい」と言われたにもかかわらず、私はHさんの話の腰を折り、アドバイスをし、ソリューションの提供をし、挙げ句の果てにダメ出しまでしてしまいました。
これらはどれも、部下は求めていないことです。
Hさんは、怒って会議室を出て行きました。私も「失礼なヤツ」と腹を立てました。不毛以外の何もでもありません。さらには社内公募に手を上げられ、私は優秀な部下を一人失うことになったのです。
結果的にHさんの未来が開けたのは喜ばしいことですが、もし彼女が私の部下で居続けていたら、ギクシャクした雰囲気が課全体に広がって、他のメンバーのモチベーションまで下げていたかもしれません。
【教訓3】 部下からの相談は基本的に“傾聴”に徹する
部下の話を聞くときは、部下の性別や年齢といった属性に関わらず、とにかく遮らずに最後まで聴くことに徹します。
「アドバイスをください」
「教えてください」
そう明確に言われていないときは、アドバイスは必要ないのです。
ぜひ一度、試してみてください。相手の話を最後まで傾聴することの効果は、信頼関係を築くうえでも、部下のもやもやをスッキリさせるためにも絶大です。
“mezame”より男性管理職にお伝えしたいこと
女性は月経、妊娠出産育児、そして更年期と男性にはない身体的な機能から来る業務パフォーマンスへの影響やキャリアのマイルストーンがあります。
これは動かしようのないものです。
ただ、男性管理職として女性特有のライフサイクル、ライフイベントへの理解は大事なことではありますが、それ以前に、その人自身を理解することはもっと大切です。
「自分の方がスキルも経験も知識もある」という思い込みで部下の話に耳を傾けないと、部下は「あなたに話をしても無駄」と判断し、心を閉ざしてしまいます。
部下の話は、聴いて聴いてとにかく聴く。
ぜひそこから、意識して始めてみませんか?
文/東 公成(あずま・きみなり)
国家資格キャリアコンサルタント、DiSC認定トレーナー、プレゼンテーショントレーナー
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