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『運び屋』渡邉美穂・最高のオープニングアクト!―シネマクラッシュ/2024年5月27日
先日BSテレ東『シネマクラッシュ』ナビゲーター就任のお知らせがありました。
そこで発表のあった、映画本編の前に”もうひとりの”渡邉美穂がミニドラマ風に映画を紹介するミニドラマ「オープニングアクト」がいよいよ5月27日放送の『運び屋』からはじまりました。
TVerの配信は無いようで残念です!
見逃した方のために再放送とかあると嬉しいのですが……。
さて前半では美穂さんのオープニングアクトについて、後半では映画『運び屋』について語りたいと思います。
映画終盤近くまでのネタバレがあるので未見の方はご注意ください。
テレ東吹き替え版は配信がなく見ることはできませんが、Amazonプライムなど各種配信サービスで字幕版、及びソフト版の吹替版で視聴できます。
(※下記リンクの価格はレンタル料金で、Amazonプライム契約者は無料で視聴できます。)
オープニングアクト
恋人感あふれる設定
”もうひとりの渡邉美穂"がテーブルに向って一所懸命勉強しているところに主観視点で話しかけるところからオープニングアクトがはじまります。
話しかける内容は音声の無い文字や絵文字で表現されるので、あたかも自分が美穂さんに話しかけているような気持ちになれます。
これは思った以上に「良い!」ですね!
一緒に暮らしている感が出ていて一気に引き込まれました。
隣りに座るように促され、ドアップで「一緒に観よ!」って美穂さんに言われるシチュエーション、ファンならずともドキドキすること必至です。
美穂さんの演技力
美穂さんの高い演技力には定評がありますが、この短いドラマの中だけでもくるくる表情を変えつつ、決してわざとらしくない演技がさらに没入感を高めていました。
美穂さんの演技って、必ずキーとなる演技と演技の間に、補完する動作や目の動きを自然に挟んでいるんですよね。
「何してるんだい?」と尋ねられたら、参考書に目を落としてから「見ればわかるでしょ?」と答えたり。
「何の勉強をしてるの?」と聞かれたらいったん目をそらして悪戯っぽい顔をしてからこちらに視線を戻して「教えな~い」と笑ったり。
演技の流れが実にスムースなんです。
次はこうしないと!という段取りが一切見えず自然です。
もちろん監督さんや演出家さんの適切な指導もあるでしょう。
しかしそれとともに、演技の勉強としてこれまで彼女が観てきた映画・ドラマ・舞台・アニメなどが彼女の中に蓄積され、アイドルや演技の仕事で徐々に彼女の中に培われてきたものが血肉と化しているのだと思われます。
加えてバスケットボールで培った頭脳と肉体の統合能力、自分を俯瞰して見る能力も自分の思い描いたイメージで演技するのに大いに役立っていることでしょう。
今回のようなミニドラマでは短い間に設定・状況・情報を伝える必要があります。
より研ぎ澄まされた演技が必要になりますが、美穂さんは十二分に役割を果たしていました。
これは来週からも期待です!
渡邉美穂さんをご存じない映画ファンの皆さんにも、美穂さんの魅力が伝わるといいですね!
運び屋(The Mule)
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88歳で本作を監督・主演したクリント・イーストウッド。
全身の老いは隠せないものの、往年の覇気はなおも健在。
5月31日には94歳の誕生日を迎えるそうです。
主人公のアール・ストーンはもちろんクリント・イーストウッド、DEA(麻薬取締局)のコリン・ベイツ捜査官はクリント・イーストウッド監督作の『アメリカン・スナイパー』で主演のブラッドリー・クーパー、その上司は『マトリックス』で有名な名優ローレンス・フィッシュバーン、カルテルのボス、ラトンは、『アンタッチャブル』『ゴッドファーザー PART III』のアンディ・ガルシアと豪華な出演陣です。
あらすじ
園芸家として全米を跳びまわり、娘の結婚式にも出席せず家族を顧みなかったアール・ストーンが、商売も上手くいかず農場も差し押さえられ妻や娘から疎んじられて落ち目の中、ひょんなことから麻薬の運び屋になる物語。
白人の退役軍人で無事故・無違反のアールは、麻薬カルテルとはもっとも縁遠い人物であるがゆえに、怪しまれることなくうまく運び屋業をこなせました。
罪の意識はあるものの大金が必要になるたびに彼は運び屋業を繰り返します。
差し押さえにあっていた農場を取り返し、孫の結婚式にもお金を出し、火事にあった友人の店に寄付をして退役軍人クラブを復活させたりと、他人のために尽くしますが、妻と娘には許してもらえません。
最初は敵対的だったカルテルのメキシコ人の下っ端や、幹部のフリオ・部下のサルとも次第に心を通じ合わせ、出くわした警察官への対応もうまく切り抜け、気ままな寄り道はかえって警察の捜査をかく乱し、どんどんカルテルのボス、ラトンの信頼を得ていきます。
全てが上手くいっていましたが、ラトンのやり方に危機感を持った部下のグスタポがラトンを殺して新しいボスとなり、彼は運び屋アールのこれまでの気ままな運び方を認めず、厳しく統制しようとします。
新しいルールにやむなく従うことしたアールは1,200 300万ドル相当のコカインを運ぶ大仕事を任されます。
途中泊まったモーテルがDEAのベイツ捜査官により捜査されますが、アールは露ほども疑われず、カフェで和やかに会話まで交わしています。
順調に目的地に車を走らせていた時、孫から電話が入り、妻が重い病気で余命いくばくもないと知らされます。
予定通りにコカインを運ばないと命の危険もある道中で、妻に会いに戻るわけにはいかず、アールは会いに行けないと伝えます。
「私が馬鹿だった、おじいちゃんをずっとかばっていて、その結果がこれ!」と孫からと罵られるアール。
そしてアールはある決断をします……。
感想
家庭の大事さを折に触れ説くアールですが、その大事さを心から知ったのは家族との別れの時だったのかもしれません。
花を愛し、園芸を通じて沢山の人から尊敬され、
強面のバイク乗り達や、パンクして困っている黒人家族にも手助けをし、
カルテルのメキシコ人にも人種の垣根を越えてフランクに接し、最初敵対的だった彼らの心すら掴み、
退役軍人であることに誇りを持ち、銃で脅されても屈しないタフな男。
そんな彼が家族の心だけは掴めていない……。
日本のお父さんにもよくありがちですよね。
本当に大事なものはすぐ近くにあるし、そしていつまでもあるとは限らないことを、この映画は教えてくれます。
家族の大切さが大事だと言うのは簡単ですが、捜査に入れ込み過ぎて結婚記念日を忘れてしまったベイツ捜査官のように、人間はどうしても身近な人をなおざりにしてしまいがちです。
家族だから理解してくれるだろう、家族だから口に出して言わなくても大丈夫だろう、という甘えがアールのような家族の断絶を産んでしまいます。
いくら大金を持っていても失った家族の時間は取り戻せません。
しかし妻の振りしぼるような最後の言葉で報われたのが救いです。
そして娘との和解、罪の償いを通してアールは正道に立ち戻りました。
アールは間に合ったのです。
遅咲きの花ではありましたが、何事にも遅すぎることはありません。
クリントの言いたかったこと
この映画で、退役軍人問題・人種問題・麻薬問題など今のアメリカを象徴する問題を背景に、決してきれいごとで済まされない夫婦愛・家族愛を描写することにより、人間にとって本当に必要なものは何であるか、そしてたとえ間違いを犯しても行いを改めるのに遅すぎることはなく、真摯に向き合うことが大事だということを、クリント・イーストウッドはアールの生き様を通して語りたかったのではないでしょうか?
この映画を見た後に、配偶者・両親・兄弟・子供にわだかまりのない、いたわりや感謝の言葉をかけてみませんか?
それこそがクリント・イーストウッドがこの映画に託した想いではなかったかと思います。
細かすぎる『運び屋』
①『運び屋』の原題は『The Mule』
「Mule」とは英語で「ラバ」という意味ですが、転じて「麻薬の運び屋」という意味もあるそうです。
女性用の靴の「ミュール」という意味もありますね。
mule /mjuːl/ noun [countable]
1 an animal that has a donkey and a horse as parents
2 informal someone who brings illegal drugs into a country by hiding them on or in their body
3 [usually plural] a woman’s shoe or slipper that covers the front part of the foot but has no material around the heel
②実話に基づいた映画
80歳代でシナロア・カルテルの麻薬の運び屋となった第二次世界大戦の退役軍人であるレオ・シャープの実話に基づいているそうです。
高校を卒業したのち、アメリカ陸軍に入隊し、第88歩兵師団(英語版)に所属した。第二次世界大戦でイタリア戦線に従軍し、ブロンズ・スター・メダルを授与された。
戦後、ミシガン・シティ近郊に46エーカーの農地を持ち、ブルックウッド・ガーデンズを起業した。1990年代中盤までには、デイリリー栽培の達人として知られるようになった。しかし、顧客がインターネット経由で種子を購入するようになると、彼の事業はデジタルの世界に適応できず、低迷した。
2009年、シナロア・カルテルの運び屋に就いた。彼の愛称は、スペイン語で「おじいさん」を意味する「エル・タタ」であった。2011年まで麻薬の運び屋を務めた彼は、合計1,400ポンド以上の麻薬を運んだことを認めている。麻薬の運び屋を務めた理由については、デイリリーと同じようにコカインは人々を幸せにする植物だからである、と語った。
退役軍人でデイリリー栽培で成功するもネットの発達で没落し、麻薬の運び屋になるというのがそのまま映画になっていますね。
そこに家族の物語、アメリカにおける諸問題を組み入れ、味わい深い映画にすることに成功しています。
ただし、麻薬の運び屋を務めたトンデモな理由はさすがにそのまま使えなかったようですね。
③アールが育てているデイリリーとは
ワスレグサ(忘れ草、学名:Hemerocallis fulva)は、ワスレグサ属の多年草の一種。別名で、カンゾウ(萱草)ともよばれる。
(中略)
ワスレグサ(忘れ草)は、花が一日限りで終わると考えられたため、英語ではDaylily、独語でもTaglilieとよばれる。実際には翌日または翌々日に閉花するものも多い。中国では萱草と呼ばれ、「金針」、「忘憂草」などともよばれる。ムラサキ科のワスレナグサとは無関係である。日本の地方により、カツコ、カンゾウナ、ウユリ、ノカンピョウなどの別名でもよばれる。
和名で「ワスレグサ」というようです。
映画中でも言われていたように、花は一日で咲いてしぼむようですね。
ワスレグサ属の大きな特徴は、花の寿命が短い一日花であることです。ワスレグサ属植物が英語で“Day-lily”とよばれているのは、この一日花の特徴に由来します
④アールの娘アイリス役の女優
アールの娘のアイリス役がクリント・イーストウッドの実際の娘、アリソン・イーストウッドが演じています。
今作以外にも数本の映画で父子共演しているそうです。
⑤伊武雅刀さん・三石琴乃さん夢の競演
アール役のクリント・イーストウッドのテレ東版吹き替えをされた伊武雅刀さんは50年前に宇宙戦艦ヤマトのデスラー総統の声優をされておられました。
そして、アールの娘アイリス役のアリソン・イーストウッドのテレ東版吹き替えは、新世紀エヴァンゲリオンの葛城ミサトの声優で有名な三石琴乃さん。
デスラー総統とミサトさんの共演ということで二人が自宅の庭で語らうシーンは胸熱でした。
最後に
渡邉美穂さんをシネマナビゲーターとして起用して最初の映画は、ハリウッドの大スターにして名監督、クリント・イーストウッドの『運び屋』でした。
これからは毎週、渡邉美穂さんが誘う映画の世界を楽しめると思うとワクワクします。
今後のシネマクラッシュのラインナップですが、
6月3日(月) :『白鯨との闘い』
6月10日(月):『コロンビアーナ』
6月17日(月):『AVA/エヴァ』
と面白そうな映画が目白押しです。
映画本編も楽しみですが、美穂さんが毎回どのようなオープニングアクトを演じてくれるのか、楽しみで月曜日が待ちきれません!
長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
(終)
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