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3度目の春
最近、Cody・Lee(李) が好き。
私はあまり、音楽に関心がある方ではなくて、
音楽のない暮らしなどあり得ないという周りの人達には理解し難いだろう暮らしの中に生きている。
なぜか音楽を愛する人達が私を日々囲んできた。
もちろん、ジャンルやテイストはバラバラだけれど、皆音楽を愛していた。
今この世の中、音楽を愛する派は圧倒的に多数派だと思う。
とか言ってるけど、皆わかってることだったかもしれない、私が驚いてしまうのは自分が少数派だからだろうから。
そもそも、大学で付き合い将来を共にするだろう恋人は、体育会系のでかい人だと思っていた。
顔も名前も知らなかったTwitterの彼は、ベースのトプ画、プロフィールにあるのは「音楽」の文字、
外側にいた当時の私には正直、「あーね」。
音楽の深さも、その愛の深さも、ベクトルも、広さも、何も知らずに、それまでの私の世界の端の方にいた「軽音が好きな人」だった。
高校で軽音をしていた友達や、現在も音楽を愛する人々、そして彼、皆に対してとても失礼な感情と態度で見ていた。
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いまだに私は音楽の深さを知れていないけれど、
たくさんの人々が通りすがる街できいた彼のBREIMENや、練習だったか本番だったか何度も流れたCody・Lee(李)はとても良かった。
何が良いかとか、どの楽器が良いかとか、どこが良いかとか、そんなのは分からないし、何も知らない私が適当に語るのはいけないし、怖いから言えないけれど、
でも、とても良かった。
音楽を聴くという機会が、人より圧倒的に少ないからか、音楽を聴くという行為はとても疲弊してしまう。
知らない音楽を聴くということは特に。
だから私は、何度も何度も、同じ音楽を聴いて、歌詞やディテールのメロディをゆっくりとゆっくりと自分の中に取り込んで、覚えて、やっと好きになる。
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「春(2020)」の冒頭の
「この街に住んで3度目の春だ」という歌詞が好きだ。
私が思い浮かべる春はきっとこの曲の3度目の春とは異なる春だけれど。
少し狭い部屋で流れるのは彼が控えめに弾くクラムボンだったり、寺尾紗穂だったり、君島大空だつたり、東京事変だったり、オリジナルだったり、する。
「drizzle」は彼が練習していた曲だ。
カラオケで練習する彼にならって、うろ覚えのままオクターブ上を歌った。
ドライブで流して、ペトリコールが好きだよね、と話した。
以前よく聞いていたインナージャーニーにもペトリコールという曲がある。
ちなみにインナージャーニーなら夕暮れのシンガーが好き。
百巻デブにはサプリメントは時速36kmみたいだね、と話した。
彼がそれはどちらも銀杏BOYZの影響を受けてるからだと教えてくれた。
ちなみに私には銀杏BOYZの名前が出てこなかったのでたった今、また訊いた。
聴くの?と聞かれて、聴かないけど、と返す、。
「江ノ島電鉄」は歌詞がないから全部自分で書き起こさないといけない、と彼が嘆いていた。
「ここなんて言ってると思う?」と聞かれて
「でぃんぎーのって?」と言うと
「ディンギーだ!ありがとう!」と言われた。
なんとかのなんとかでなんとかさんがディンギーについて話していたと。
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あー、こんなふうに、音楽について話す日が来るなんて思ってなかったな。
私は真の音楽好きではなくて畏れ多いけれど、
音楽が、暮らしの中に入ってくるのが、少し可笑しい。
こうやって思い出に音楽がのるのは
とても素敵だなあと、
彼と出会ってからちゃんと知った。
3度目の春であり、2度目の春。
人の多さにも慣れないといけないし、未だに慣れない。
4度目の春、私の3度目の春、駅から帰る道は慣れてしまったままでいてほしい。