優勝者のチェック時給が1300円!?

 数日前から翻訳界隈でうわさになっているお知らせがこれ。著名な翻訳エージェントが翻訳グランプリを開催するというのだ。

 審査は一次と二次がある。一次は書類で、履歴書と作文、ジャンルの異なるトライアルが2題。二次は面接とある。作文提出や面接まで含んだトライアルは珍しいが、それは「自社に合った応募者を選ぶため」だと考え、とりあえずおいておく。
 優勝者の賞品は200万円分の仕事依頼ということだ。つまり1年間で翻訳、翻訳チェック、MTPE(機械翻訳ポストエディット)の仕事を計200万円分回しますよ、ということ。
 それだけ?という疑問は湧くが、フリーランスの身からすれば「黙っていても200万円分の仕事が降ってくる」のは魅力的であるので、これもとりあえずおいておく。
 肝腎の単価だが、翻訳8~10円/ワード、チェック1300円/時、MTPE1900円/時ということだ。チェックとMTPEは「御時給」と書かれていて、時給に「御」をつけることにも驚いたが、独自の過剰敬語を使う翻訳会社というだけで、これもとりあえずおいておく。
 問題はこの単価設定そのものだ。一般の翻訳者募集ならば驚かない。このご時世、翻訳料金もチェック時給もその程度に下がったのね、としか思わない。
 だがこれは、コンペ優勝者へのオファー料金なのだ。
 何百人と応募が殺到するかもしれない。そのうち最優秀者、訳文は優れていて、社会人としても問題なし(翻訳の質はよくても連絡がなかなかとれないとか、すぐ怒り出す人もいますからねぇ)。当社が現時点でSランク翻訳者と認めた「ひとりだけ」に対するオファーでチェックが時給1300円!? 最優秀者の時給ですよ!?
 繰り返すがフリーランスは各種保険、光熱費、作業スペース、PC、すべて自分持ち。有休も退職金も、その他保障も保証もなんにもない。10月から始まったインボイス制度で課税事業者になれば煩雑な手間、免税事業者のままならば収入減につながかねない。会社員の時給1300円とはわけが違うのだ。
 それなのに、「当社が認めた最優秀者」のチェック時給が1300円はあまりにも低すぎるのではないだろうか。
 せめて、翻訳20円/ワード、チェック3000円/時、MTPE 5000円/時であってほしかった。
 翻訳8~10円、チェック時給1300円という条件では、優秀な人、すなわち現在1300円よりも稼いでいる翻訳者/チェッカーは応募しないだろう。
 自分を例に挙げると、わたしはとくに優秀ではなく、ふつうレベルのチェッカーだと思うが、時給にして1300円よりは上である。現在、市場で頑張っている人はみなそうだろう。それよりも下の層から、果たして時給1300円で仕事を受ける「当社が認めた最優秀者」が出現するのであろうか。

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