小説翻訳校閲マニュアル
「失敗学」を立ち上げた畑村洋太郎と飯野謙次はいずれも、「自分の仕事のマニュアルは自分で作るのが一番よい」と言っている。こうすると、どこでミスが出やすいかも自分でわかるのだと。
というわけで、わたしも、まずは小説の翻訳校閲マニュアルを作ってみた。
0. 準備
手順:
1) 校正紙はなくpdfのみが送られる場合、自宅プリンタで原文と訳文(組んだもの)を印刷しておく。
2) 校正紙がある場合でも、PDFをA3で拡大印刷しておく。141%で拡大すると、12Qが18Qになるのでとても読みやすい。
3) 「拡大」してプリントした校正紙を「読み専用」とし、発注元から届く、あるいは自分で原寸で印刷する校正紙を「書き込み専用」と分ける。これが最大のポイント。
1. PDFで翻訳チェック
目的:誤訳と訳抜けを見つける。
環境:デュアルモニタをさらに半分ずつに分けて、4分割で使う。
モニタ左側は、中央側に原文、左側(端)に資料
モニタ右側は、中央側に訳文、右側(端)に辞書
手順:
1) 1行ずつ左側の英文を指で追いながら、右側の訳文をチェックしていく。
2) 疑問があれば当該箇所の校正刷りに鉛筆で原文を書き込んでいく。
3) 最終ページまで来たら最初に戻り、2)の鉛筆コメントと原文、訳文をもう一度照合する。
4) 誤訳・訳抜けと判断すれば、鉛筆で「書き込み用」校正紙にコメントする。
5) 自分の思い違いとわかれば、鉛筆のコメントを消しゴムで消す。
6) 1)~5)のプロセスにおいて、誤訳と訳抜け以外のミス(単純誤植等)が見つかれば、それも鉛筆で書き入れておく。
時間:小説の場合、480ページを24~30時間くらい。出版翻訳の場合、それで終わるくらい翻訳の質は高い。言い換えると、翻訳の質が担保されている。
2. メモしながら論理的整合性を確認
手順:
1) キーワードや登場人物の相関関係、地名や登場人物が辿った経路等をメモをとる。
2) 1) に基づきPDFファイルで検索をかけ、他の箇所との整合性を確認する。
3) 疑問出しが必要であると判断すれば、鉛筆で「書き込み用」校正刷りにコメントする。
3. 校正紙で日本語素読み(+ファクトチェック)
目的:誤字や脱字を見つける。事実関係を確認する。
手順:
1) 「読み専用」の文字が拡大された校正紙を読み、言葉や表現の整合性を確認する。
2) 疑問があれば「書き込み専用」校正紙に鉛筆で記入する。
3) ルビはPDFファイルを拡大して、拗音や促音が全角になっていることを確認する。
所要時間:ファクトチェックで大ブレーキがなければ、480ページで15~20時間。
4. JustRight!をかける
所要時間:機械は数秒で結果を返してくる。検証するのに表記ゆれ「以外」で1時間ほどかかる。
手順:
1) JustRightでPDFを読み込んで「校正実行」する。
2) 「校正結果」タブを見ながら検証する。単純な脱字や変換ミスが検出される。自分が素読みで落としていた箇所も見つかることがある。
3) 「表記ゆれ」タブを見ながら検証する。すべてを検証すると途方もない時間がかかるので、いつも統一する語を決めておき、それだけは「書き込み用」校正紙に転記していく。
具体的には、地名や人名等の固有名詞、ストーリーのキーワード、2~3か所を除き、残りの表記が同じである頻出語。
5. 校正紙で日本語素読み(2回め)
目的:ロジックやストーリーの整合性を確認する。
手順:
1) 「読み専用」校正紙を、今度はストーリーに注意しながら(読者と同じ読み方で)読んでいく。
2) 読みながら疑問があれば鉛筆で記入する。
3) 最後に、自分が記入したコメントが妥当でわかりやすいかを読みながら、「やはり不要」と判断したコメントを消しゴムで消す
6. 発送(納品)
手順:
1) 「書き込み用」校正紙のページがそろっているかを確認する。
2) 上下左右をきちんと整えてゴムで束ねるかダブルクリップで止める、あるいはビニール袋に入れて紙が動かないよう、きっちりとセロハンテープで止める。
3) 梱包資材に入れて封をする。
4) ヤマト運輸の「宅急便」の送り状を書いて貼る。品名は「書類」、お届け指定は翌日の午前中を記しておく。
5) コンビニに持っていくか、15:00を過ぎていればヤマトの集荷センターまで直接持ち込む。梱包資材が自宅になくなりそうであればこのとき仕入れておく。
6) 自宅に戻ったら、送り状番号を記入して納品メールを書き送る。
7) 領収書を貼って専用の引き出しに入れ、帳簿にコストを入力しておく。
こうやって自分でマニュアルを書いていくと、途中で気づきもあるし、次からこれに従えばよいとわかって気分が楽になれる。どんな仕事にもお勧め。とくにフリーランスは、「いつもの仕事」「コアな仕事」については必ずやっておくとよい。
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