論理療法(REBT)的。自分自身の非合理的な考えとの交渉【書評】論理的思考と交渉のスキル 高杉 尚孝
論理療法(REBT)の本だとは思わずに、「論理的」というタイトルに惹かれて手に取った本。論理療法のD(論駁)は、いわば「交渉」に似ているのではないかと考えたのだけれど、ビンゴ!だった。論理的な交渉ができれば、自分の思考をより変化させやすくなるのではないか。
論理療法に応用できる多くの教訓を見つけられる本だった。とりわけ6章が論理療法的で役立つ。
脱!「ねばならない」思考
交渉の際に「ねばならない」思考を持つのは、自分を心理的に追い詰めることになる。「成功させなければならない」と思えば、失敗は「悲劇」となり、容易に落ち込みや罪悪感、怒りなどの感情につながるからだ。交渉が決裂しそうになった時に、硬直した思考を持っている人は自ら、破滅的な感情を表してしまう(逆効果)ことが多いという。
「この交渉は絶対にうまくいかなくてはならない」という「ねばならぬ思考」です。一見勇ましく、またポジティブで好ましいようにも聞こえるこの思考は、実は円滑な交渉の進展に大きな障害として立ちはだかる可能性を秘めた非現実的な「悪い思考」なのです。
絶対的、至上命令的な要求であるこの思考のもと、仮にこの「絶対にうまくいかなければならない」交渉が実際にはうまくいかなかったとしたらどうでしょう。もしそのような事態になれば、絶対にあってはならない状況が実現してしまうことになります。この「絶対にあってはならない状況が実現してしまう」状況は大きな矛盾を孕んでいるため、心理的に強い困惑と葛藤を引き起こしてしまうのです。」
「望ましい」思考
そこで、「ねばならない」思考の代わりに選択できる思考がある。それが「望ましい」思考。「~~であるべき」から「~~であってほしい」への転換。多少でも思考が柔軟になれば、交渉も柔軟になる。
「「ねばならぬ思考」や「どうでもいい思考」に取って代わるものとして、「望ましい思考」を選んでいただきたいと思います。 具体的には、「この交渉がうまくいくことはとても望ましい。しかし、そうならない場合もある」と考えて下さい。こちらは相対的で願望的な、そしてまた論理的でより現実的な「良い思考」の一種なのです。
「交渉がうまくいくのはとても望ましい」と考えれば、当然、望ましい状況を実現すべく、求められる準備や努力が期待できます。のみならず、仮にうまくいかなかったとしても、それは「あってはならない最悪の悲劇」にはなりにくいと言えます。なぜなら、うまくいかなかった状況は決して望ましくはないものの、現実として起こり得るものであると認識できているからです。」
交渉の場においても論理療法で、自分自身の気分を整理しておくことが重要であることを理解できる。交渉の場で直接、論理療法を使うというよりも、平常心で交渉に臨む必要性を銘記させられた。やるからには成功したいし、うまくいってほしいと思うのは当然のことだ。
しかし、それにあまりにこだわり過ぎるのはよくない。最大限の準備をしてもうまく行かないこともある。うまくいったらラッキーと思っておけば、気分も楽になる。論理療法を学ぶと、自分の思考が思いのほかガチガチに凝り固まっていることが分かる。このように、気が付いていない自分の内面を分析し、洞察できるのは、最高のセルフヘルプになる。
自分自身との「交渉」
他にも交渉の場で用いることができる「技術」の多くが、自分自身のB(ビリーフ:非合理的な考え方)へのD(論駁)に用いられることを確認した。
この本をきっかけとして、交渉術やディベート術などが、セルフヘルプ心理学に使えることを発見。優れた交渉術の本は、少なからず心理学的だ(人をコントロールする系の下世話な心理学もどきではなく。)他者を説得するための本は多いけれど、大事なのは自分自身を説得するために使うことだ。
私は論理療法のD(論駁)の持つイメージは少し強すぎる気がしているが、これを「交渉」や「納得」させるという手法に変えていくことで、自分の中では腑に落ちる感じがしている。「交渉」本も色々読んでみよう。