才能か努力か?の結論「天才! 成功する人々の法則」マルコム・グラッドウェル
私を悩ませていた長年の問いは、成功に役立つのは「才能なのか、努力なのか」ということだ。もし、努力こそが成功の理由なのであれば、人一倍努力することに価値がある。しかし、成功の理由が才能なのであれば、向いていない人がどれだけ努力しても意味がないことになる。
これまで何年も、何年も考えてきたことに何とか納得できる結論を下すことができた。その助けになった本を紹介したい。斬新な切り口で定評のあるライター、マルコム・グラッドウェルの「天才!」だ。
情報密度が濃く、豊富な実例をもとに考えるきっかけをくれた。とても要約はできないけれど、忘れたくないキーワードだけ書き残しておこうと思う。キーワードは「マタイ効果」と「一万時間の法則」だ。
#マタイ効果
「誰でも、持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまで取り上げられる」(マタイによる福音書25:29)
社会学者のロバート・マートンは、成功している人は特別な機会を与えられるチャンスが高く、結果として成功しやすいという法則を発見した。それがマタイ効果だ。これが、この本の結論であり、豊富な実例はそれを裏付けるために用いられている。
1章に、この本を方向付ける一節があるので引用してみたい。
「本書では、成功者に対するこの手の「努力と個人的資質がすべてを決める」という考え方が間違っていることを伝えたい。何もないところから身を起こした者などいない。誰でも出身と支援者から恩恵を受けている。
・・・そういった人々は必ず隠れた優位点や、特別な機会、文化的な伝統の恩恵を受けており、そのおかげで熱心に学び、仕事に励み、他の人にはできない方法で世界を理解するのだ。そして、育った場所や時代も違いを生む。自分の属する文化と、先祖から受け継いだ伝統が、想像もつかない方法で成功のパターンを方向付けている。」
(天才! 成功する人々の法則 ハードカバー – 2009/5/13マルコム・グラッドウェル (著), 勝間 和代 (翻訳) P24)
この裏付けとして、成功しているカナダのアイスホッケー選手に関する統計が興味深い。成功している選手の7~8割が1月~4月生まれだ。
これはカナダでは1月1日を起点として同じ年齢の子を集めてクラスを作るからだ。子供のころの12か月は成長に大きな差を生む。身体的に成長している子が、もっとも訓練を受ける可能性が大きくなり、その結果、優れた成績を上げるようになり、、、好循環がずっと続く。
最も才能がある選手だと思っていた人が、単に早生まれだったというのは驚くべきことではないだろうか。これは本書で取り上げた一つの事例に過ぎない。
#一万時間の法則
「生まれつきの才能はあるか」という問いに関して、よく引き合いに出されるキーワードが「一万時間の法則」だ。
心理学者のK・アンダース・エリクソンは成功した音楽家に関する徹底的な調査を行い、練習量の圧倒的な差を見つけ出した。成功した音楽家は例外なく「一万時間」の練習時間を積んでいるというものだ。エリクソンは「生まれつきの天才はいない」という結論を見出している。
私は「究極の鍛錬」という本で「一万時間の法則」を知った。数年前に読んで非常に感銘を受けた本だ。厳しい?内容だけれど、とにかく「努力は裏切らない」という気持ちにさせてくれる。愛読書の一つだった。
しかし、一万時間の法則を本当に理解するためには、前述の「マタイ効果」を前提にしないと正しい結論にたどり着かない。私には、この視点が抜けていた。
先ほどのアイスホッケー選手を例にとりたい。
「一年の後半に生まれた神童は、八歳のとき、身体が小さいために代表メンバーになれない。だからより多くの練習機会が得られない。より多くの練習機会が得らなければ、プロのホッケーチームがスカウトを始める前に、合計時間が一万時間に達する見込みがない。一万時間の練習を積んでいなければ、トップレベルで戦うために必要な技術が身につかない。
・・・一万時間とは途方もなく膨大な量の時間だ。10代の後半までに、自分だけの力で一万時間をクリアすることは、ほぼ無理である。両親の励ましや支えが必要になる。貧しい家庭では難しい。家計を助けるためにアルバイトをしていれば、練習時間が充分に取れないからだ。事実、たいていの人が一万時間に達するためには、特別なプロジェクトに恵まれた場合か、並外れた好機に恵まれた場合に限られる。」
(天才! 成功する人々の法則 ハードカバー – 2009/5/13マルコム・グラッドウェル (著), 勝間 和代 (翻訳) P48)
一万時間の法則は、間違いなくあるのだけれど、そもそも一万時間の訓練をつめるのはマタイ効果で恵まれた状況にある人だけだということ。
生まれた場所や状況・環境に人は影響を受ける。独力で、自分だけの力で成功した!と主張できる人はいない。この事実はいわゆる「成功者」を謙虚にさせるだろう。成功者こそ納得がいかないかもしれないけど。
このことを突き詰めて論じたこの本もおすすめだ。
世界に一つだけの花
結局のところ、環境という才能?に恵まれた人が、一生懸命努力した時にある種の「成功」が生まれるというのが結論だ。
だからある種の人にはどうしても望めない世界・ポジションもある。どれだけ努力しても無理なものは無理なのだ。それと同時に、自分にも他の人から見るとうらやましくてたまらない環境があるのだと理解したい。その環境を活かし、正しい目標を持って努力するなら、人生が開花する可能性はあるだろう。誰かと比べてではなく。
もう一冊、マルコム・グラッドウェルの本を紹介したい。この本は、いわゆる非常に不利な状況に置かれた人が、その環境だったからこそ、非凡な実績を実現することができたという実例が豊富だ。
LD(学習障害)とか、二流大学とか、いわゆる成功するコースではない状況に置かれたからこそ、発揮できた成果・成功に関するストーリーが爽快だ。つまりは、一般的に見るとデメリットにしかならないように見える、その環境こそが成功する土壌になったのだ。
このことを考えれば「ナンバーワンになれなくても、誰もがオンリーワン」は真実なのだ。誰もが世界に一つだけの花なのだ。なんちゃって。