ワンコ・ダブルバインド
心理学用語で「ダブルバインド」というのがある。
日本語では「二重拘束」と呼ぶものだ。
どういうことかというと、
「どっちをとっても最悪みたいな状況」
そう思ってもらって構わない。
例をあげよう。
子どものころにイタズラをしたことを
親に見つかったときのことを思い出してもらいたい。
親がこういうセリフをいったことはないだろうか?
「怒らないから正直に話しなさい」
このとき、自分の脳裏にはこういう考えが浮かぶ。
(正直に話したら、きっと怒られるよな・・・)
(でも話さなくても怒られるよな・・・)
そう。どっちに行っても地獄である。
違う例を思いついたので書いてみよう。
あなたには仕事に厳しい上司がいる。
その上司に
「すまんが、今日は残業してくれ」
そう言われたとしよう。
ところがだ。
その日は彼女と食事の約束をしていた。
しかも、しょちゅう仕事のために
デートの約束をダメにしてきた経緯がある。
今日はその埋め合わせなのだ。
デートに行きたい。
でもそうすると上司にかなり睨まれる。
それどころか明日からターゲットになるかもしれない。
かといって残業を取るとどうなるか?
これまでのこともあるから、彼女はきっとキレるだろう。
そうなったらもう破局しかない。
どっちにしても針のムシロだ。
いや、この場合「彼女を取る」のが正解かも知れない。
その方がかっこいい気もするし、ずっと大事にしてくれる男性と
思ってもらえそうだ。
・・・いや、でも上司ににらまれたら会社に居づらくなってしまう。
最悪退職になるかも知れない。
そしたら無職だ。それはそれで彼女に捨てられるかもしれない。
そう。男はつらいのだ。
毎日がダブルバインドなのだから。
そんなダブルバインドだが、私の身近でもずっと起こっている。
私ではない。奥でもない。
こいつに起こっている。
うちのワンコだ。
ミニチュアダックスのメス。
名前を珠寧(たまね)という。
一応姓名判断でチェックしてつけておる。(ウサギの兔楽もそう)
5歳になる。
正確な生年月日はわからないが、
便宜上6月3日になっている。
なぜそうか?というと、珠寧は保護犬だ。
ブリーダーが面倒見切れなくってレスキューされたワンコだ。
実はうちは保護犬の里親なのだ。
珠寧で3匹目になる。
珠寧は東京のボランティア団体さんのところに居た。
Loved one Dさんというところ。
主にダックスフントを中心に保護活動をされている。
東京なので三重県は本当は管轄外になる。
でも我が家の熱烈ラブコールにこたえてくださり、
嵐の中、東京から三重まで連れてきてくださった。
本当に感謝である!
こうしてうちの子になったわけだが、
まーとにかくかわいくて仕方がない。
体もちっちゃいので、見た目は子犬である。
鳴き声も「アン、アン」なのでおこちゃまだ。
そんな可愛い珠寧にダブルバインドが起こっている。
どういうことかというと、
私たち家族が珠寧を呼ぶときにそれは起こる。
名前を聞いた彼女はすごく尻尾を振る。
とても嬉しそうにする。
でも、近寄ってこない。
前に進もうとするけど、また尻込みをする。
行きたいけど行けない。
これをずーっとやっている。
そうダブルバインドだ。
ただ、こっちにきても
抱っこしたりなでたりするだけだから
別に怖くもなんともないはず。
でもダブルバインドは起こる。
実はこれ保護犬あるあるの現象だった。
特に珠寧のようにブリーダーで
何度も妊娠・出産を繰り返していると
人の手というのは、交配させられるときと
帝王切開で子どもを取り出されるときに
自分を連れていく手なのだ。
そう。よいことは一回もないのだ。
そういう経験をこのちっちゃな体で
なんどもしてきている。
でも、この子たちは人が好きだ。
私たちのことも好いてくれているし、
危害を加えないというのも理解している。
でも体がそれを拒む。
行きたいけど怖い。
可愛そうだが、今はそういう時期だ。
だから私たちはダブルバインドにならないように
来なくても叱らない。
それでいいと思うようにしている。
寂しいけど、今珠寧はめいっぱいだ。
そう、ダブルバインドを破るたったひとつの方法。
それは「決めても決めなくてもハッピー」という状態を
作ってあげること。
これを、20世紀の魔術師と呼ばれた
偉大なる催眠療法家ミルトン・エリクソンがやっていた。
それゆえ「エリクソン・ダブルバインド」という。
おそらくあと半年、いや1年、もしかしたら3年たてば
珠寧も私たちの膝の上に飛んでくるだろう。
その日がくるのが待ち遠しい。
追伸1
先住犬の愛琉(あいる)はペットショップで3年放置された上、
夜逃げによってレスキューされている。
愛琉は頭を撫でようとすると、ビクッとなっていた。
3年くらいして甘えてくれるようになった。
愛情は注ぎ続けないといけないのだ。
追伸2
そんな珠寧だが、最近少し寄ってくるようになった。
そして差し出した手を「ペロ」っと1回舐める。
こんなちっちゃな変化が本当にいとおしいと思う。