マガジンのカバー画像

消えゆく記憶と共に〜双極症の私と認知症の母の日記〜

私は双極性障害を抱え、母は認知症を患っている。病が進むにつれ、私たちは現実を見失い、自分が誰であるかもわからなくなる。そんな私たちは、まるで鏡に映る存在だ。全体と部分は見方の違い…
¥2,980 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

#共感

【第18日】母の音色、新たな調べ

認知症の治療の鍵は「新しいことを覚える」ことにあるのではないか——そんな考えが私の心に芽生えていた。母は昔の思い出を生き生きと語るのに、最近の出来事はすぐに忘れてしまう。そのたびに、口癖のように「面倒くさい」と呟く母の姿があった。 ある日、私は母に漢字検定の勉強を一緒にしようと提案した。新しい漢字を覚えることで、脳を刺激できるかもしれないと思ったのだ。しかし、母の興味は湧かず、長続きしなかった。私自身も興味のないことを覚えるのは苦手だから、その気持ちはよく分かる。 では、

【第17日】3分間の深い診察

素敵な主治医との出会い 双極性障害を抱える私は、これまで数多くの医師の診察を受けてきた。20代で発症し、東大病院や専門の精神科病院にも通った。情熱的な加藤忠史先生や、現在の東大病院精神科長である笠井先生のもとを訪れたこともある。しかし、大学病院の精神科は予約をしていても待ち時間が長く、診察は平日に限られ、担当医も曜日ごとに変わる。薬を受け取るための待ち時間も含めると、通院を続けるのは容易ではなかった。 そんな中、たどり着いたのが現在の主治医であるS先生だ。精神科の診察は一