新卒4ヶ月目に整理解雇された話

　今思い返しても、1年間で自分の立場がころころと変わるのは、きっと後にも先にも2020年だけなんじゃないかと思う。
　私は2020年、学生と会社員と無職であり、その年のうちにまた会社員になった。

　2020年の3月に大学を卒業し、4月に新卒で入社した会社は、コロナ禍の波に飲まれて整理解雇となった。7月上旬に30人程の全従業員が集められて、弁護士事務所の人がいて、ああ、会社とはこうやって縮小し、潰れていくのだと感覚的に学んだ。

　一応、社長1人を残して会社自体は存続しているらしい。8月の解雇後も、案件は先輩方が業務委託で最後までやりきるなり、他社に委託するなりで回していたのを知っている。でも、この2021年の今現在、元いたその会社が続いているのかは知らないし、知ろうとも思っていない。4ヶ月という短い間でもお世話になった先輩方の安否は少しだけ気になるけれど、Facebookを更新している方はきっと大丈夫なんだろう。

　私はあまり人に連絡をするのが得意ではない。
　私なんかが特に用もなく連絡していいのだろうかと。迷惑になっていないだろうか、こんなくだらないことで連絡していいのだろうか、そもそも何を送ろうか、と。
　今、私の周りにいる人たちはそんなことは思っていないと、頭のどこかでは分かっているけれど、怖いのだ。
　そんなことを考えているから、お世話になったアルバイト先の方にも1回しか近況報告はできていない。縁の切れ目は金もあるけど連絡も。

　話を戻すと、私は新卒約4ヶ月で無職になったわけで。そしてアルバイト時代の知識で、第二新卒の中途採用でも、大体は社会人歴半年か1年が求める人物、なんて欄に記載されていることを知っていた。
　実際、転職サイトにはそうした求人が圧倒的に多く、社会人歴が短いことを理由に落ちた企業もあった。業種業界を選ばなければ、すぐにでも再就職ができるのはもちろん知っている。万年人手不足のような業界もあるし、30代未経験ニート歓迎を唄う企業が20代第二新卒を雇わないわけがない。
　世間一般でみれば、学歴は早稲田卒で高いほうだし、いくらでもその後育てることはできるから。

　でも私はせっかく志望業界にいたのに、それを手放すことはしたくなかったし、興味がないことはあまり仕事にしたくなかったので、かなりこだわったと思う。
　そもそも真面目に大学生のときに就活してれば良かったとはたまに思うけれど、内定先から選んだのは私だもの。どうしようもないことではあるし、結局あるがままを受け入れるしかないわけで。

　パニック発作と軽うつが再発したぐらいで、再就職活動自体は意外となんとかなっていた。ちなみに1回目は就活のときである。自分ではコントロールできない｢選考｣が鬼ほどストレスなのだ。採用条件に当てはまらないのは分かるけれど、暗にお前は価値がないと言われているようで無理。
　だって新卒も第二新卒もポテンシャル採用であって、経験・スキル採用ではない。人間性否定されたようなものじゃない？　考えすぎだってよく言われるけれども。

　それに加えて｢なにもしていない｣状況が無理だった。働きたくない、残業したくない、そんな気持ちは全く分からない。仕事をせずにどうやって、その人たちはいざ仕事がなくなったら生きていくんだろう。
　私は実家暮らしで、親も働いているからなんとかなった。でもその親だって有限だ。働かなければお金は手に入らない。お金がなければ生きていけない。
　1人で生きていくこともできない私が、生きている価値はないと、空っぽになった頭にずっと残っている。そう思うなら働けばいいけれど、職は決まっていない。悪循環とはこういうこと。

　まぁそんなこんなではありつつ、無職だったのは約3ヶ月間だった。ありがたいことに希望業界希望職種で内定は2社から頂いたし、11月には再就職できていた。8月初めに整理解雇されてから、9月末に内定頂いて、10月は人生初めての合法ニート。
　実はここでも会社の先輩方には助けられていて、とある先輩の前職の会社にリファラル採用で入社している。人の縁ってすごい。他に4人いた同期も全員就職していて、無職が続いている人はいない。ちなみに同期の男子2人は同じ会社で、また同期として働いている。縁が強かったのかな。

　ただ、入社半年経たないと失業保険はもらえないこととか、年金は市役所で切り替えの手続きをして、自分で国民年金を納めなきゃいけないこととか、健康保険はどうするのかとか、就活と並行して考えなきゃいけないこと、やらなきゃいけないことはたくさんあったし、そういうことは学校で教わらない。Google先生を通じて、先人たちの知恵を簡単に拝借して、ネットが発達している便利な時代で良かったと、つくづく思った。

　23歳になり、4月からは一応社会人2年目になる。21卒の内定者が入社して先輩になるらしい。中途入社とはいえ、20卒であることに変わりはなくて、一応新しく増えた同期も社内にはいる。
　そんなイレギュラーな人間ではあるけれど、社会人の中で整理解雇された経験がある人はそうそういないし、喉元をすぎてしまえば、いい飲み会のネタになったなとしか思わない。

　それでも、私の中にはどこか消えない爪痕が残っているし、こうして消化するために言葉に記している。
　付き合っていた彼氏を頼りきれずに別れてしまったこととか、1人で生きていくにはあまりにも非力であることとか、自分の欠点や目を背けていたい事実を突きつけるには、無職の3ヶ月は丁度よすぎたのだ。
　趣味の小説だって、気が向いた時に書くからいいのであって、それをずっと続けられるわけでは無い。暇だったからフォロワーに会いに北海道までGotoしたけれど。

　私って、こんなになにもない人間だったっけ？

　結局、そんなこんなで仕事に関しては、結果だけみればハッピーエンド。人生結局どうにかなってしまうらしい。一方、本当に大好きで、心から信頼していた人はもう隣にいないけれど、そう決めたのは私だ。
　仕事と恋人、私は仕事の方が大事な人間だったし、両方欲張ることができる状況でもなかった。だって、何もしないで働くことすらしていない人間が、恋愛するっておかしいじゃない。
　世の中探せばそんな人は何人もいるだろうし、母親含め、専業主婦だって無職といえば無職だ。
　私が自分のプライドを優先させただけ。そのために、元カレには、本当に自分勝手な理由で別れを告げて傷つけたと思う。自分がされたら嫌なことを平気でする人間を知っているから、同じになりたくなくて、ずっと守ってきたルールを大好きな人に向けて破った。
　そんな、最低な自分が大嫌いだ。

　新しい会社で働いて、もうすぐ3ヶ月がすぎる。働くことは楽しいし、休日出勤も残業も全く苦にならない。でも何かが足りなくて、ずっと後悔し続けている。
　もしあの時きちんと話し合って、もっと元カレを頼っていたらと考えてしまうのだ。でも過去を変えることはできないし、また元カレと付き合っても、私は不器用だから、1度別れたことを無かったことにして再び付き合うことは無理だろう。そもそも今、彼に抱いているのは恋愛感情ではなくて、どちらかというと友愛に近い感情である。

　もし、の話であって、実際に復縁するとかは一切考えていない。私は恋人との繋がりを断ち切ったけれど、1度切れたものは元通りには戻らない。たまに連絡をとってもどこかぎこちない。
　それよりも、信頼している人と完全に縁が切れてしまうのが怖いのだ。
　私は彼女じゃない。彼女だから、という理由で他愛もない話を送りつけていい間柄ではなくなった。

　ゆるやかに人との繋がる方法なんて知らないよ。

　会社との縁を整理解雇で切られたはずなのに、私は大切な人との縁を切ってしまった。今まで人と、そういう付き合いしかしてこなかったから、どうしたらいいのか分からない。

　人としての欠陥を、自覚させられただけじゃない。