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大田ステファニー歓人『みどりいせき』

このままじゃ不登校んなるなぁと思いながら、高2の僕は小学生の時にバッテリーを組んでた一個下の春と再会した。
そしたら一瞬にして、僕は怪しい闇バイトに巻き込まれ始めた……。
でも、見たり聞いたりした世界が全てじゃなくって、その裏には、というか普通の人が合わせるピントの外側にはまったく知らない世界がぼやけて広がってた――。

『みどりいせき』集英社文芸ステーションより

全体として

とにかく、文体がユニーク!
私は一度、この本の最初20ページ目くらいで断念しています…(笑)
頭の使いすぎで疲れてしまって💦

でも、数ヶ月ぶりに読み進められたとき、凄く面白くて、一夜(実際には2日くらいかかった気もするけど、体感)で読み終わりました。

百瀬翠と、その周りで繰り広げられる人間模様──「絆」というには少し明るすぎて、「依存」というと暗すぎる──が色濃く、豊かに描かれていて、本当に、楽しい一冊だった。

現代的な価値観の中で生きている若い世代にぜひ読んでみてほしい。
共感できる内容もいっぱいある。

性や所属を超えて、自分の生きたい・棲みたい共同体の中でしか得られない安心感。
それを描写してくれてるから、この本を読んだことで共感・安心できる人もいるんじゃないかな。

この話を一言で言うなら…「文化の形成」
薬売りの一助をすることで人と繋がり、心の拠り所ができるお話。
人と人が繋がって支えあう、優しいけど、少し苦しいお話だったなと感じました。

描き分け・情景描写がすごい

高校でいわゆる「まとも」な道を歩む学生の会話と、(闇バイトをしてそこから外れていると言える)桃瀬たちの会話を「違う文化」として対照的に描いていた気がする。

具体と抽象、みたいな。
そこの意識的な描き分けが見事だなと思った。

物語は桃瀬の一人称視点で進む。

最初、桃瀬が春との野球のシーンを回想するシーン。
そこの文体がとにかくユニークで…(そこで一度、断念)。

だけど、違うんですよね。
高校の同級生との会話や雰囲気、母との会話はいたって「ふつう」で「あれっ、読みやすい」ってなった。

桃瀬を通して、ふたつの「違う文化」が見えたなって思いました。

それに、桃瀬の視点でありながら、情景描写が巧みで、その場面の様子がありありと目に浮かぶようでした。
しかも、その表現の仕方もユニーク。
語彙力が無くて、ユニークしか言っていない……。

そして何より、最後の章「りょこー」は凄かった。
登場人物によって「ミッドサマー」と表現されるほど、薬でぶっ飛ぶシーン。

「怒涛」という言葉が似合う。
春たちの意識の飛び具合や、「バッド」に入るモモの心情が視覚的に分かる。

ぜひ、読んでほしい。
桃瀬と一緒に、感情が振り回される感覚を体験してほしい。

少し脱線しますが、この本を読んで、本って自由なんだなって思いました。

表現じゃなくて、物質として表現できる可能性があるんだって。
絵本であれば、そのような「紙面の遊び」をよく見るけれど、小説でそれをやるのは大胆だなと思った(私があまり読んでいないから分からないだけで、他にも沢山そういう本はあるのかもしれないですが……)。

私にはうまく理解できなかった、桃瀬翠の人物像


私にはまだモモの人物像が掴みきれていない。
ちょいふくよかな男の子、くらい。

私の高校生男子のイメージは、
女性を異性として意識することに慣れ始めてきて、女子に対してかっこつけたり、反対に優しくしたりする、みたいな。
つまり「女子と男子」という枠組みの中で一生懸命生きているイメージがあった。
一方で、男子同士は固いコミュニティみたいなので強く結ばれていて、そこから外れる者はとことん仲間外れにする、みたいな。

だから、春への執着(?)とか、同級生への距離感・付き合い方とかが、
私のイメージからはかなり離れていて。
「そういう子もいるか」と思えばそれで納得できることではあるけれど、不思議な人だったなという印象でした。

唯一、物語の終盤辺りで「悪いことして少し優越感に浸る…」みたいな内省が語られていて、その部分は何となく分かるなぁと感じたものの、結局、彼の性格の全体像は分からなかった。

時間を置いて、もう一度読んでみたいなと思います。
まだ今年は始まったばかりですが、さっそく私の「今年のベストブック」に入りそうな本でした……!
ぜひ読んでみてください。

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