あの日、平和を願う"高校生の彼女"と"小学生の私"が出会った気がする
私がショップの立ち上げを構想することになった大きな理由は、「素晴らしいものづくりをしている人が周りにたくさんいるから」である。最初の数ブランドは、ショップの構想前から知り合っていた方ばかりだ。
シリアと日本をつなぐアクセサリーブランド「YDY」の代表・有希さんもその1人。彼女との出会いは、私がまだ古着のチャリティーショップのマネージャーとして日々古着の活用について考えまくっていた頃。衣類交換会などを企画してエシカルファッションを啓蒙する「カタルフク」のメンバーとして知り合った。
エシカルファッションの勉強会で知り合ったメンバー同士で「何らかの活動をしよう」と集まったのが、「カタルフク」の始まり。会社員時代の後輩がメンバーの1人で、彼女から誘われるままに打ち合わせ兼食事会に参加した私は、少しずつメンバーと打ち解けながら、気づけばちゃっかりグループ名の名付け親となっていた。
その席でお隣に座ったのが有希さん。ジュエリー会社で働きながら、ジュエリー職人として個人的にも活動するという彼女の話はとても興味深かったのを覚えている。一緒に活動する中で、「シリア難民の女性とものづくりプロジェクトをしていて、今後の運営をどうしていこうかと…」と軽い相談を受けたことで、YDYの活動をぼんやりと知ることとなった。
その後、私が企画に参加したイベントへの出店を依頼し、当日YDYの商品を初めて生でみたときに、その美しさに圧倒されてしまったのである。素直に、商品としての美しさに。シリアの人たちの色づかいのセンスなのか、モチーフなのか、ビーズ編みの繊細なつくりなのか、込められた思いが表れているのか…どの要素にここまで自分が惹かれたのかはわからないけど、とにかく圧倒されてしまったのだ。
そのときに購入した丸いビーズモチーフのピアスは今も大事に使っているし、「いつか私がお店を持ったら絶対に声をかけよう」と決めていた。
それから約2年経ってこうして自分の店をオンラインで持つこととなり、勇気を出してお声がけしたのは、なんとちょうど、有希さんが会社を辞めジュエリー職人として独立するというタイミング。「YDYもしっかり事業としてやっていきたい」と新しいプロジェクトの計画を練っているときだった。
取材という形で有希さんのアトリエを訪問し、YDY立ち上げの経緯を問うたときの返答が、ストーリー冒頭の「高校生のときにイラク戦争が始まって…」だったのだ。
「戦争反対デモに参加する高校生だった」「BIG ISSUE編集部の仕事にも興味があった」というエピソードを聞いたり、シリア難民のお母さんやシリア在住の女性アーティストとのやりとりを聞いたりする中で、なんとなく「あのとき圧倒された美しいもの」の正体がわかる気がした。
それはたぶん、YDYの商品から漂ってくる、「平和への願い」なんだと思う。
有希さんはたぶんすごく社会派なクリエイターなのだけど、メッセージを直球で伝える経験もしてきたからその虚無感も知っている。だからこそ、ソフトにアウトプットできる感性をも持ち合わせているのだと思う。だから、YDYの商品は単に「綺麗なビーズアクセサリーだね」では終わらない。モチーフの一つひとつに、色づかいに、平和への思いが目一杯込められていて、それが伝わってくるのだ。
目に見えないものの話をしているけれど、これは決して後付けのきれいごとではなくて、その感性は、製作の工程に大きく影響してくる。有希さんの中東の平和を思う気持ちは、シリアのつくり手の人たちの思いを汲み取る力につながる。そうすると自ずと、商品は彼女の独りよがりにはならない。有希さんのフィルターを通したシリアの人びとの”今”が表れるのだ。
たとえば「風の耳飾り」は、風に吹かれても自分らしく生きる女性の強さ・しなやかさを「うねり」で表している。デザインの原案は現地で使われているテーブルクロスだとか。こんな発想は、難民キャンプで今、子どもを産み育てようとしている女性たちの気持ちに寄り添わないと生まれないと思う。
私自身も、平和への思いは人一倍強いと自覚している。きっかけは小学校3年生のときに「アンネの日記」の読書感想文を書いたこと。10歳にはまだ受け止めきれないホロコーストの史実を知り、あの夏は「戦争が起きたらどうしよう」って震える日々を送っていた。受け止めきれない現実の中を生きている人びとがその瞬間にもいることを知らずに、ただただ戦争に怯えていた。
自分がソーシャル分野に進んだ、本当の原点はたぶんその体験なんだろう。そしてあのとき、イベントのブースに並ぶYDYの商品を見たときに、戦争に怯える小学生の私とイラク戦争に疑問を呈す高校生の有希さんが商品の上でふっとリンクしたんじゃないかな、ってぼんやりと感じている。
平和なんてもはや幻かもしれない。でも、こうして平和を願い、形にして日本で伝えようといる人がいる。
YDYが新たに始めたプロジェクトは、内戦が続くシリアで活動するアーティストの絵画をストール・スカーフにしたもの。「その地で今、何を思っているの?」と思わず問いかけたくなるほど感情的な作品を、有希さんが臨場感のある商品につくりあげた。
まずは何も知らなくてもいい、YDYのアクセサリーから何かを感じ取ってみて欲しい。ストーリー記事を書いておきながら「ウンチクや背景は後ほど…」と密かに思っている。
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