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【読書記録】 羊と鋼の森

羊と鋼の森

後輩に借りて読了、無駄がなくて、自然の表現が凄く美しい本だった。映画化されてるのをしらなくて読んだのも先入観なく読めてよかったな。
北海道の森で育った青年の調律師としての成長物語。北海道はわたしの父の故郷で、わたしも何度も行ったことがある。北海道はあたたかいけど冷たいみたいな、きりきりした雰囲気の中に穏やかさを感じる土地だと思う。特に、真冬に背丈ほど積もった雪は、そこにあるだけで美しさと恐ろしさを感じさせる。わたしは、自然の脅威と恩恵は人間の力の及ぶものでは無いと知っている人々が好きだ。この本を通して語られる自然の表現は凄くきれいで、魅力的だった。

主人公が素直で、調律やお客さんに対しての姿勢が好印象だった。
楽器を弾いてる身としてはピアノの仕組みの話はすごい面白かった。音を言葉で表す難しさには共感した。

ピアノの音が良くなっただけで人が喜ぶというのは、道端の花が咲いてよろこぶのと根源は同じなんじゃないか。自分のピアノであるとか、よその花であるとか、区別なく、いいものがうれしいのは純粋な喜びだと思う。(本文より)

この本の主人公のような、人間同士のいざこざにあまり興味がないというか 興味が無いまでもない、無私無欲であるように見えて凛としているようにもみえるような、深い部分に芯のあるひとはわたしにとってすごく魅力的で、憧れるなあっておもった。

とにかく穏やかできちんとした文面はずっと読んでいて気持ちがよかった。
特別に激しく話が展開するわけでは無いし、劇的なシーンがある訳でもないけど、この物語はわたしの心の奥底から気分をじわっと暖めてくれて、自然や音楽とか忘れそうになってしまう大切なものを思い出させてくれた。本当に読んでよかった〜

気に入ったシーン↓
綿羊牧場を身近に見て育った僕も、無意識のうちに家畜を貨幣価値に照らして見ている部分があるかもしれない。でも、今こうして羊のことを考えながら思い出すのは、風の通る緑の原で羊たちがのんびりと草を食んでいる風景だ。いい羊がいい音をつくる。それを僕は、豊かだと感じる。
同じ時代の同じ国に暮らしていても、豊かさといえば高層ビルが聳え立つ街の景色を思い浮かべる人も、きっといるのだろう。(本文より)

わたしが豊かだと思うのは、前者の羊たち。


ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

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