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壁ごしのエンドロールと夜のシネマ

映画館を "シネマ” と呼んだのはいつぶりだろうな。
なんだかもう遠い昔のような気がするが、私にとって映画館という場所はやはり今でも "シネマ” と呼ぶ方がしっくりくる。


急になんでシネマの話をしようと思ったのかというと、ふと今日思い立って「エンドロール・マラソン」をしていて突然あのシネマで過ごした日々が懐かしくなったからである。


(エンドロール・マラソン…エンドロール開始1分前くらいから、さまざまな映画のエンドロールを立て続けに観る私の映画のひとつの楽しみ方。全くの造語です。)


画面には、当時何十回と繰り返し壁越しに聴いた、
「マトリックス リローデッド」のエンドロールが流れている。
映像と音楽をきっかけに、どんどん当時の感情が蘇ってくる。

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私は映画のエンドロールが好きだ。


私は映画館で映画を観る時には、必ずエンドロールは最後まで観る派である。そこには映画の世界と現実の世界を繋ぐ架け橋があり、そこをゆっくりとゆっくりと一歩ずつ歩きながら対岸へと向かうそのプロセスが本当に美しいと思う。


ラストシーンを迎え一番盛り上がり、映画の世界にどっぷり浸かっている観客を、現実世界へと送り届けるそのスクリーンには、その世界を創り上げてくれた全ての人への感謝と敬意が綴られている。私は時に感動し、時に心臓をぎゅーっと掴まれているような気持ちになり、時に笑いながら、時にワクワクしながら、そんな自分の高揚した気持ちを届けてくれた、世界のどこかにいる見知らぬ誰か一人一人に想いを馳せる。


そんなエンドロールに、
”どんな形でもいいからいつか自分も出てやるんだ”
なんて野望を実はこっそり今でも持っていたりする。


そんなエンドロール好きな私が、浪人時代、自分の予備校の費用を稼ぎ出すためにバイトを探していた時、もう一択でしょ、と迷いなく選んだバイト。
それが「シネマのバイト」だった。


「もしかして映画館でバイトすると映画タダで観られたりするのかなあ」


せっかく働くならそりゃーもう、自分が好きなことへの特別待遇があるほうがいいですよね。映画館でのバイトへの優待は場所にもよると思いますが、私が働いた二つのシネマはいずれも、【空いている時間帯の空いている席であれば無料で鑑賞してよい】プラス【試写も無料で観にきてよい】というもの。


「うっへへ、これで映画館で映画見放題じゃん!」

そんな、なかなか不純(むしろ純?)な動機で面接をクリア、浪人と同時に、私の4年にわたるシネマライフがスタートした。


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シネマのバイトの主な業務といえば、


・チケット販売
・売店(飲食販売・物販)
・アナウンス台・もぎり
・入れ替え・清掃
・ポスター貼り・チラシセット
・1日の締め業務


などが当時の主な業務。私が働いていたシネマはチケットの座席はざっくり希望を伺ってスタッフが指定していくやり方がメインだったため、いかに "美しく座席を埋めていくか" をパズルのようにこなしてみたり、パンフレットをぴちーっと綺麗に袋詰めしてみたり、ポップコーンをいかに美味しそうに作るかとか、入れ替えの清掃をいかに手際よく終わらせるかなど、毎日それなりにこだわりを持ちながらバイトを楽しんでいた。


ちなみに私がシネマでのバイトを始めた2003年は話題作が目白押しの黄金期で、毎週末のようにチケットブースに行列ができ、シネマの外までその列が続くことも多かった。


2003年の興行収入ランキングを見ていただくと、同世代のみなさまだったら「この年か・・・!!」とお分かりいただけるに違いない。

洋画が
・ハリーポッター 秘密の部屋
・マトリックス リローデッド/レボリューションズ
・ターミネーター 3
・ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔
・パイレーツ・オブ・カリビアン
・007 ダイ・アナザー・デイ
・X-MEN2
など超大作が続き、さらに


邦画も
・踊る大捜査線
・黄泉がえり
・座頭市
・呪怨2

など話題作が続いていた。


特に「踊る」「マトリックス」「パイレーツ」あたりがかぶった夏休みは毎日怒涛だった記憶がある。行列に並んでいただいているお客様をいかに上映時間に間に合うように、さらに座席を有効に埋めてチケットを販売するかは、チケット担当の腕の見せ所だった。


「本日はどちらの作品をご希望でしょうか???」
「こちらのお時間の回でよろしいですか??」
「お席ただいまでしたらこちらがおすすめですがこちらでお取りしてもよろしいでしょうか??」
「上映10分前からあちらの入場口からのご案内です!再入場の際は半券を必ずお持ちください!」
「次のお客様こちらどうぞぉぉぁーーーーーーー!!!(大声)」


もはや脊髄反射レベルで、深呼吸する暇もなくチケットをひたすらに売り続けたのが懐かしい。


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そんな多忙だったシネマ業務で一番私が好きだったのは「入れ替え」と呼ばれる清掃業務。映画が終わってお客様が出てくる前に扉を開けて、出口の外でゴミを受け取り、お客さまが出終わったら館内を清掃し、次の上映回にそなえる。


なぜその入れ替えが好きだったかというと、最後の最後、映画のラストシーンをこっそり観てからドアをあけ、映画館からこぼれ落ちてくるエンドロールの音楽を聴きながら映画の余韻を一緒に楽しめるから。


エンドロールラブな私にはご褒美のような時間。


ちなみに特にお気に入りは「マトリックス リローデッド」「パイレーツ・オブ・カリビアン」「ラスト・サムライ」
特にこの3作は非常に人気があり上映期間も長かったので、繰り返し繰り返し作品を観た時の興奮を思い出しながら、手元ではポップコーンやジュースのゴミを華麗に受け取っていたのをとてもよく覚えている。


「わたしこれの入れ替え入りたい。エンディングめっちゃ好きで・・」


と、むりくり交代してもらったこともある。
好きな映画のエンドロールは、何度聞いても背筋が続々する。
おかげでもうエンディング曲の順番はすっかり覚えてそらで口ずさめるほどだった。


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私は「ラスト」と呼ばれる1日のクロージングスタッフとしてシフト入りすることが多かった。当時一人暮らしの生活費を自分で稼いでいたため、夜のシフトは効率がよかったためだ。


1日の営業の終わり、最後のシアター清掃、ドア締めなどをしながら、誰もいない暗い館内を歩き、よく物思いに耽っていた。

シネマ時代は自分が一番未熟で、繊細で、迷いと葛藤に満ちていた時代。


あまりに役立たずで先輩に嫌味を言われ、シネマの奥、宣材が並ぶところでこっそり泣いた日もある。


親切にしてくれていた先輩のなんらかの琴線に触れてしまい、つい翌日からハブられ遠くから悪口を聞こえるように言われていた時期もある。


恋愛相談を受けていたと思ったら、私は直接関係ないのに恋愛のゴタゴタに巻き込まれたこともある。


仕事をよりよくこなそうと思うことで、他のバイトの子と衝突することもあった。


ついにはお局扱いをされるのが嫌になり、大学3年の頃、シネマを去ることを決めた。


そんなバイトの最終日はラストだった。
全てのシアターのエンドロールをしみじみと見届けた。
ラストではスタッフが少ないため通常スタッフがお客様を見送らないで、ゴミ箱だけ置いておくのだが、できる限りエンドロールが聞きたかった。


"社会に出て働く" の最初の一歩を見守ってくれたシネマ。

好きな世界に没頭するチャンスをたくさんくれたシネマ。

新作のチラシが届いて、みんなであれこれ話すのも楽しかった。

すっからかんの劇場で、気心しれた仲間だけで試写を観るのも好きだった。

洋画より泣ける邦画の方がエンドロールが終わるまでみんな席から立たなかったのも懐かしい。

仕事ができる人、頼りにされる人、みんなに愛される人をよく観察した。

仲間と喧嘩して気まずくなったこともあった。

シネマは間違いなく、わたしの青春だった。


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エンドロール・マラソンをすると、なんとなくあの頃の自分の気持ちが蘇ってきて、自然と涙にあふれて、背筋はぞくぞくした。


もう帰れない。もう帰らない。
でも、すっかりわすれていたけれども、
私の中にこれまでの私は確実に生きているし、
その場所はもうなくなることは絶対にないんだなあ。


いま私は、画面を横切るグリーンの文字列を目で追いながら
Rage Against The Machine の 「Calm Like A Bomb」を聴いている。


未熟だった自分がまだそこにいる。
そうだね、まだまだいまもまだ未熟者ですわ。
あのときのいろんな気持ちも
ひとつひとつがキラキラ輝いている。
自分が奮い立つ。


映画のエンドロールが、
また失いつつあった感情を私に取り戻してくれた。


そういえば、なんと、私の青春「マトリックス」シリーズ最新作
マトリックス レザレクションズ、もうアマプラで購入できるらしい。


便利な時代ではあるけども、やっぱり映画館に観に行きたいな。
レイトショーでこっそり観に行こうかな。
そしてまたエンドロールの最後の最後まで楽しむこととしよう。


みなさんも、よかったらいかがですか?
たまにはやっぱり、ゆっくり映画もよいですね。

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