あの人が、抜群に「上手い」理由
ボディボードの雑誌『FLipper』と女性向けサーフィン誌『SURFERGiRLS』の編集長をしていた頃、いつも悩んでいたことがあります。
それは、ライディングの写真選び。
プロは皆、究極の技を、波のきわどいセクションでかけたりして、一般人を驚かせてくれるわけですが、プロたちのフォトセッションで撮影された、あまたある写真の中から、限られた誌面のスペースで、どれを使用したらいいのか迷ってしまうことが多いのです。
ある日、『FLipper』で特集を作るため、編集部で写真選びをしていたときのこと。
後に4年連続で日本の頂点を極め、6つの日本タイトル王者(当時、ボディボードには2つの連盟がありました)となった近藤義忠プロが写真セレクトに来てくれていました。
そのときに、私が言った「写真選びって、ほんと、難しいね」の一言に、近藤プロは、とても軽やかに、優しい笑顔でこう言ったのです。
「難しくないと思いますよ〜。純粋に、きれいだな、美しいなと思うものを選んだらいいんじゃないですかね」。
そして、近藤くんは、こう続けた。
「水泳でも、他のスポーツでも、きっと何でも同じだと思いますが、もし、それが本当に理にかなった動きだったとしたら、どんな一瞬を切り取っても、姿、形は美しいはずだと思います」。
理にかなった動き=どんな一瞬も美しい
機能的=美しい
そうか!! そうだったのか!!
見て美しいと感じるということは、無理なく、無駄のない動きで、その瞬間、その場所でなしえる最高のパフォーマンスをしているということなのだ。
それは、波にとっても、乗っている人にとっても、最高に幸せな瞬間であって、それが“調和”ということなのだ。
どんなにスゴい技をかけていたとしても、波のパワーやリズムに同調することなく、無理矢理やってしまったとすれば、それは、美しくは映らない。
確かに、たとえば、「波に乗ってやるぜ!!!」というアグレッシブな気概が出過ぎてしまっている人のライディング写真には、顔にも、体の動きにも、写真にはそれが如実に写し出されていて、どの瞬間も美しいというわけにはいかない。
近藤くんが教えてくれたその言葉に、私は深く感じ入り、それからの人生の中で、あらゆる物事を見る際の指針となりました。
そんな視点を持っている近藤義忠プロは、ボディボードはもちろん、サーフィンも抜群に上手いのですが、群を抜いて、最高に美しいのです。
私が編集長をやっていた時に活躍していた現役プロたちの中では、サーフィンもボディボードも、男女を含めて考えても、美しいという視点では、近藤くんがダントツだったのではないでしょうか。
それは、波がデカくても、ジャンクでも、スーパーチューブでも、どんな波のときも変わりません。
見えている人には、どんな波であっても、その波自身の持つ美しさが、その波が与えてくれる素晴らしさが、そして、そこに調和する自分自身が見えているのだと思います。
だからこそ、美しく乗れるのであって、それこそが「上手」というものなのだと私は思います。
スポーツだけに限らず、どの世界にも、その頂点を極めた、抜群に「上手い」人たちがいますが、きっと、みんな、そんな「美しさ」の真理を知っている人たちなのではないでしょうか。
人を魅了してやまない「美しさ」とは、それが山や海や花などの自然であっても、そこに住む動物や昆虫であっても、わたしたち人間であっても、すべてに共通しているのは、無理をせずに、素直に、その生命をまっとうするために必要なことをしているということ。「美しくなろう」と思わなくても、自然にそこに到達してるものなのだと思います。
そこに、他者との調和が生まれなければ、「自分だけよければいい」のだとしたら、決して、美しさには到達しないのでしょう。それは自然の掟でもあり、どんなことをしても、決して逆らえないのだと思います。
こんなことに気づかせてくれたことに、心から感謝しています。本当にありがとう。
「美しさ」の真理に、少しでも多くの人たちが気づけば、海の上も、世の中も、もっと平和になるのではないでしょうか。
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