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#映画感想文008『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020)

大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』を見てきた。

この映画の存在を知ったとき、泡沫候補のドキュメント映画かな、と思ったが、現役の野党議員ということで興味を持ち、見に行くことにした。

このドキュメンタリーの感想には、小川淳也議員を「いい奴」と形容したり、感動したというコメントも少なくない。ざっと見た感じでは好意的な意見が多い。人物として、ドラマとしては、決して悪くない。確かに面白かった。

しかしながら、正直に申し上げると、私が政治家に求めるものには、ほど遠かった。

まず、戦略がない。小川議員は「私は前原さんより右でも、枝野さんほど左でもなく、中道だ」という。だから、どうしようもなく中途半端なのだ。

また、希望の党に合流する際も、同郷の玉木さんとの付き合いと比例当選を算段したうえでの決断である。この日和見的な態度に理念とか思想信条はまったく感じられない。彼自身も奥様も、無所属にすべきだったかもしれない、といつまでも苦悩していた。当時のボスである小池百合子氏に対しても、辛辣なことを口にする。慌てふためく姿は、非常に人間的である。親しみやすい。しかし、政治家が市井の人であっては困る。

私が政治家に求めているのは、利害の一致しない人々の双方の意見に落としどころを見出し、政策として成立させる、という実務能力なのである。清濁あわせ飲み、タフな交渉をしてほしい。(アメリカのドラマ『ハウス・オブ・カード』では、政治家の汚さや冷酷さが描かれているが、あれぐらいでちょうどいい)

もちろん、世襲政治家が持つ「地盤、看板、鞄」のない彼が頑張っていることもわかる。右往左往している様子を晒せる正直さには、好感が持てる。しかし、四苦八苦している様を見せられたところで政権は取れないだろう。

もし、バラク・オバマが議員になるまえのドキュメンタリーがあったとすれば(あったらすみません)、有権者から千本ノックを受けつつも、対話を重ねていたのではないか。おそらく、オバマは我慢強く有権者の声に耳を傾けただろう。

そういう意味では、日本の有権者の弱さが、小川議員の存在理由の弱さであるといえるかもしれない。我々は地元の議員にプレッシャーをかけているだろうか。政治で世の中が変えられると信じているのだろうか。小川議員は「政治家を馬鹿にする風潮があるようでは、日本の政治は絶対によくならない」と発言している。それには同意する。政治家は国民の代表に過ぎない。国民のレベルが政治家に否応なく反映される。私たちはもっと政治家と対話し、自分たちの代表に何かを託さねばならない。

社会を良くするための政策、たとえば、子ども食堂を公営化する、公民館などで行う、という税金の使い方は、反対する人々もいるだろう。しかし、子どもたちが安定した生活を送ることは、コミュニティの安定と未来への投資であると考えれば、子どものいない、直接の利害関係にない人々も支持する理由にはなる。次に待っているのは、その予算はどこから持ってくるのか。どこの予算を削るのか。そこで、論争となる。しかし、そういったやりとり、議論と交渉を繰り返さなければ(それはすべて無駄になるおそれもあるが)、政治家も有権者も強くなれない。富の再分配が最適化されなければ、国民の生活はよくならない。なぜ、私たちは黙って、奴隷的に納税をしているのだろう。納税は年貢ではない。

もちろん、誰かが勝てば誰かが負ける。そこで恨まれたりすることの恐ろしさ、村の論理を日本人はよく知っている。だからといって、縁故と癒着ですべてが決まる封建時代に戻っていいのだろうか。せっかくの民主主義を手放していいのだろうか。

民主主義は不完全だし、人々は平等ではない。ただ、その仕組みと考え方を利用し、活用方法を考えるべきなのだ。もちろん、自省と自戒を込めている。私は投票行動しかしていない。陳情などに行ったこともないし、政治家と会話したこともない。

昨今の政治状況を鑑みるに、ノンポリ的な政治態度は、平時にはよいが、非常時は何の意味も持たないことがよくわかる。

政治家は黙っている有権者は無視をする。それは当然である。そんな国民は透明人間と変わらないのだから。

小川議員の心許なさは、有権者の心許なさでもある。彼は有権者を映す鏡に過ぎないのかもしれない。

そして、カメラが映していない(映せない)だけなのかもしれないが、小川議員には、どろどろとした利害関係が見えない。もちろん、与党ではないので、単にパワーがないのだとしても、政治には執着が必要で、時には血が流れるものだと思っている。(彼は何の利害も背負っていないから、クリーンでいられるのだろうか)

私たちには、まだ選択肢が残されている。行動しなければ、まともな未来はやって来そうにない。その方法については、立憲民主党と国民民主党の合流騒動が落ち着いたので、少しずつ考えようかと思っている。


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佐藤芽衣
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