#読書感想文 野原広子(2020)『妻が口をきいてくれません』
野原広子の『妻が口をきいてくれません』を読んだ。集英社から、2020年11月に出版されたコミックである。
今、主婦の闇、夫に対する醒めた気持ちを描かせたら、野原広子さんの右に出る者はいないのではないか、というぐらいのリアリティがある。そして、こういうのが嫌なのでわたしは結婚しない(できない)のだろうと思ってしまった。このストーリーに出てくる夫の言葉は、どれも我慢できそうにない。
前半のストーリーは無視される夫側の視点で進む。夫の方は、なぜ妻が話をしてくれなくなってしまったのか、ずっとわからない。思い当たる節はあるのだが、「これだ!」という確信が持てる出来事はない。ずっと、おどおどしながら、生活を続けていく。そして、あっという間に五年という歳月が過ぎる。夫の方でも耐えられなくなり、妻に離婚を切り出す。
後半は、夫から離婚を切り出された妻の視点で、これまでの出来事、夫の言動が明らかになっていく。原因はひとつではない。様々なことが積み重なり、我慢の臨界点を越え、妻は話さない、無視することを選ぶ。
「なるほど」と思う反面、「専業主婦」という職業が制度疲労を起こしているような気もする。もちろん、専業主婦(専業主夫)を選んでも、何の問題もない。しかし、夫がDVやモラハラ、生活費を渡さない、などのことをしたら、その先の生活は地獄以外の何ものでもない。
ラストで、妻が預金通帳を見て「まだ、これだけ」とため息をついて、パートに出かけていく。つまり、経済的自立さえできれば、離婚できる、ということなのだ。いつでも離婚できるという安心感と、いつ離婚されてもおかしくないという緊張感は、夫婦双方に必要なことなのではないだろうか。
この夫は悪い人ではないが、ふるまいは明らかに家父長的であり、家父長制度の上に無自覚にあぐらをかいている。生まれながらの特権を行使できる人たちがうらやましい。
東アジアの女性たち(韓国、中国、そして日本)が、非婚化まっしぐらなのは、家父長制度に乗っかっている男性と暮らすメリットが見いだせないためだと思われる。
もちろん、愛があれが、すべて乗り越えられる。「愛」があればね。
『消えたママ友』は、もっとホラーで、こちらもおすすめである。