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#映画感想文334『愛に乱暴』(2024)

映画『愛に乱暴』(2024)を映画館で観てきた。

監督は森ガキ侑大、脚本は森ガキ侑大、山﨑佐保子、鈴木史子、出演は江口のり子、小泉孝太郎、風吹ジュン。原作は吉田修一。

2024年製作、105分、日本映画。

桃子(江口のり子)は専業主婦8年目。夫の真守(小泉孝太郎)は妻の話にあいづちを打ちながらも、まったく聞いていない。義母(風吹ジュン)との間にも、微妙な距離感がある。

桃子の日常には、小さなひびが入っていく。疎外されたり、小さな無視が積み重なり、彼女は徐々に精神的なバランスを崩していく。桃子は町内のゴミ捨て場に汚れがあれば、バケツに水を張り、デッキブラシで掃除をするような律儀で几帳面な人だ。彼女は気が付く人であるからこそ、生活はノイズだらけになっていく。

そのうえ、彼女の苦悩は外からは見えにくい。彼女は夫の実家の離れに住んでいて、建物は古いが生活するには何も問題はない。庭も家庭菜園が楽しめる程度の広さがある。手土産にはデパ地下の高級お菓子を持参しているし、スマホも新しい。経済的に困っているわけでもない。しかし、彼女は生理痛に苦しんでいるし、子どもも授からない。キャリアの断絶は自覚しているし、自分の実家に居場所がないことも知っている。

彼女は夫の不倫に気付いているが気付かないふりをしている。なぜなら、彼女自身も不倫相手だったから。夫の行動パターンは変わらないので、彼女は残酷な自分自身の過去を反芻してしまう。

周囲から無視をされ、承認されないことへのストレスが描かれており、それは決して他人事でないと思った。いつ誰がそのような状況に陥ってもおかしくない。人間は互いを承認し合うことが必要なのだ。顔見知りの青年に「ありがとう」と言われただけで、彼女は真人間に戻れる。仲良くなれなかった義母も、彼女を追い詰めないように、家を残してくれた。救いはある。ただ、人生にあがりやゴールなんてないのだと改めて思わせてくれる作品でもあった。

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佐藤芽衣
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