#映画感想文321『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』(2022)
映画『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ(原題:Rabiye Kurnaz gegen George W. Bush)』(2022)を映画館で観てきた。
監督はアンドレアス・ドレーゼン、脚本はライラ・シュティーラー、出演はメルテン・カプタン。
2022年製作、119分、ドイツ・フランス合作。
ラビエはドイツに暮らすトルコ系の移民。夫は自動車メーカーの工場で働き、長男はトルコの女性と結婚、下の息子二人は中学生と小学生でまだ小さい。
長男ムラートは、ムスリムではあるが、敬虔なムスリムではないことを気にして、国外のモスクのセミナーを受けていた。不運なことに、旅先のパキスタンでタリバンではないかと疑われ、キューバのグアンタナモ収容所に収監されてしまう。グアンタナモといえば、キューバにある米軍基地でアメリカの法律が適用されない、何でもし放題のところである。
息子のムラートを救うため、母のラビエは文字通り東奔西走するも、成果は出ず。マスコミには「ブレーメンのタリバン」などと見出しで煽られる。そんななか、彼女は人権派弁護士ベルンハルト・ドッケを電話帳で見つけ、藁にも縋る思いで、彼に依頼をする。
そこから二人三脚で、ドイツの警察、トルコの法務省、アメリカのホワイトハウスまで、彼女の行脚は続く。そして、1786日後に息子がやっと戻ってくる。(ムラートはドイツ国籍を取得しておらず、滞在許可を更新していないため、再入国できないとニュースで報じられたり、とドイツの杓子定規なお役所仕事の一端も描かれている)
母の愛が軸に描かれているが、母を支えるため次男が家事に時間を取られ、学業が疎かになってしまったり、ムラートを救うための活動に一切協力しない父親といった問題が、問題として浮上してこず、背景のままで終わってしまう。そこに違和感が残った。家族の物語、移民家族の苦闘に、もっとフォーカスしても良かったのではないか。
ラビエは肝っ玉母さんで明るい人ではあるのだが、夫への愛情が醒めていたりするところは、さらりとだけ描かれている。
ただ、まあ、実際の事件、実在の人物たちがモチーフになっており、今もドイツ社会の中で暮らしているので、家族のドロドロは描きにくかったのだろう。そこが本作が人間ドラマとして弱いところだと思う。
ドイツに戻ってきたムラートが、夜空を眺め、暗闇を味わうシーンは印象深かった。グアンタナモ収容所では寝かさないため、照明が煌煌とついたままだったのだという。
そして、今もグアンタナモには無実の人々が閉じ込められている。誰もがムラートのように、家族に恵まれているわけではない。そのうえ、タリバンは元気にアフガニスタンの人々を抑圧している。9.11以降のアメリカが世界に何をもらたしたのか。その検証はこれからも続いていくのだろう。