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#映画感想文279『グランツーリスモ』(2023)

映画『グランツーリスモ(原題:Gran Turismo)』(2023)を映画館で観てきた。

監督はニール・ブロムカンプ、脚本はザック・ベイリン、ジェイソン・ホール、出演はアーチー・マデクウィ、オーランド・ブルーム、デビッド・ハーバー。

2023年製作、134分、アメリカ映画。

観に行くかどうか迷った。わたしは運転免許を持たず、自動車やF1にも、まったく詳しくない。とはいえ、ゲーマーを現実の世界でプロレーサーにするという話はかなり面白そうだと予告を見たときに思った。Rotten Tomatoesでの評価も悪くなかったので観に行くことにした。

ヤン・マーデンボロー(アーチー・マデクウィ)は大学からドロップアウトして、ニートのような状態。お父さんはイングランドのカーディフの元プロサッカー選手で、一軒家もあり、貧困に苦しんでいる家庭ではなく、中流である。ヤンは『グランツーリスモ』の新作を買うため、洋服屋のバイト以外にカフェでのアルバイトを1か月やり、買えたら、さっさと辞めてしまう。それぐらい彼にとっては大事なゲームなのだ。そのことが父親には理解できないし、サッカー選手として芽の出そうな弟とどうしても比較されてしまい、ヤンは少しだけ家族の厄介者のような存在である。

ただ、ビデオゲームを心から大事に思う気持ちというのは世代間の差が大きい。2023年の映画のマリオが製作できたのも、「ゲームをわからない映画製作者がいなくなり、ほとんどの人がプレイヤーとしての経験があるから作れた」という主旨の話を監督や脚本家がしていた。本作も、その一つであると言えるだろう。任天堂やプレイステーションのロゴが映画館の画面に大映しされると、それなりに迫力もあるものだ。

ゲーム『グランツーリスモ』のプレイヤーを実際のレーサーにするためのGTアカデミーの設立者がダニーで、オーランド・ブルームが演じている。彼はイギリスの日産の社員で、プレゼンをするため、横浜の日産本社まで飛ぶ。日本の日産幹部から懐疑的な視線を受けながらも、そのプロジェクトは承認される。「ちゃんとした指導者を探せ」という命令もあり、ダニーは新宿の思い出横丁で飲みながら、いろんな人に断られ続け、ジャック・ソルターに仕方がなく電話をする。(このオーランド・ブルームは、マーケティングで動こうとする汚い大人っぽい立ち位置でありながら、悪役ではなく、あくまでリアリストであり、そこもよかった。顔がだいぶ変わったな、という気もする)

ダニーが立ち上げたGTアカデミーの指導者になるのが、ジャック・ソルター(デビッド・ハーバー)で、彼は元はプロレーサーでランボルギーニの整備士として働いていた。ランボルギーニのスター選手であるキャパに進言したところ、侮辱され、衝動的に退職を決める。

この三人を軸として物語は進んでいく。非常にわかりやすい展開で、『週刊少年ジャンプ』のようでもあった。

ヤンは控え目で、派手なパフォーマンスができるタイプではないが、誰よりもレースに精通しており、プレイヤーとして図抜けていた。まずは、アカデミーに入るための選考レースに勝ち、アカデミーの中での代表選抜にも勝利し、公式レースで4位以内に入ればライセンスがもらえるので、何とか4位に入り、チャンスをつかむ。最後はルマンの耐久レースに参加し優勝をする。トレーニングを積み、強くなっていくものの、事故を起こして観客に死人を出してしまったり、といったカーレースにつきものの苦難もしっかり描かれていく。

ヤンは車と自分が一体になるような感覚が堪らないのだ、と言っていたが、それが彼の才能であり、センスだったのだろう。

また、お父さんが「お前の夢をサポートしてやれなくてすまなかった」とゲーマーの彼をひややかに見ていたことを涙ながらに謝罪するのだが、そのとき、わたしは気が付く。ヤンはゲームをやっていたニートとはいえ、プロサッカー選手のお父さんのフィジカルは受け継いでおり、実のところ、結構サラブレッドだったのでは? と。ヤンが一流レーサーになれたのは偶然ではなく、必然なのだ。また、車の運転というのは、物理的な要素が多分に左右するが、その一方、シミュレーションすることも同じぐらい重要な要素なのではないだろうか。

で、これ実話がベースになっており、ヤン・マーデンボローは実在の人物だとエンディングで知り、驚愕した。

東京もたくさん出てくるし、ソニーのカセットウォークマンまで出てきちゃうので、ステルスマーケティングとかそのような次元ですらない。商品と現実を映画化したんだから、そりゃそうか。

レースシーンはもちろん大迫力で映画館での鑑賞をおすすめしたい。


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