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#映画感想文187『パラレル・マザーズ』(2021)

映画『パラレル・マザーズ(原題:Madres paralelas)』を映画館で観てきた。

監督・脚本はペドロ・アルモドバル、主演はペネロペ・クルス。2021年製作、123分のスペイン・フランス合作映画である。

この作品には主軸が二つある。一つはスペイン内戦時代の虐殺による遺体遺棄があり、その発掘プロジェクトである。ジャニス(ペネロペ・クルス)は祖父の遺体を墓に移したいと考えている。ただ、専門家も必要でお金もかかるプロジェクトで財団に申請して認可を受けなければならない。ジャニスはプロのカメラマンとして働いており、おそらく雑誌か何かの撮影で知り合った法人類学者のアルトゥロに依頼をして、発掘が行われることになる。そして、ジャニスとアルトゥロはこの出会いをきっかけに関係を持ち、ジャニスは妊娠してしまう。彼は既婚者だったので、シングルマザーとして生きていくことを彼女は決める。

主軸の二つ目は、映画のタイトルの通り、もう一人の母親の登場である。17歳の少女アナは、同級生に輪姦され、予期せぬ妊娠をしてしまう。父親は三人のうちの誰かだが、彼女はそれをはっきりさせようとはしていない。

偶然、同じ産院で、同じ日に二人は女の子を出産する。二人の娘は、経過観察の時間が設けられ、出産直後の二人の近くには赤ん坊がいない。ここで、赤ん坊の取り違えが起きてしまう。

その後、退院し、ジャニスと娘のセシリアとの暮らしが始まる。別れたはずのアルトゥロが娘に会いたくてやって来る。ジャニスはそれを受け容れるが、「ぼくに似ていない。ぼくの子どもではないと思う」と言われてしまう。憤慨するものの、ジャニスはDNA鑑定を行う。自分とセシリアに血縁関係があるか否かを。父親を調べる必要がない、というのも興味深いが、つまり、はじめから彼女はセシリアに対して違和感を持っていたことがわかる。

同日に出産したアナのもとにいるアニタが、ジャニスの本当の娘なのだが、電話をかけても通じず、ジャニスは弁護士に相談をしていたりもするが、何を相談していたかは、観客にはわからない。

で、正直に言うと、この赤ん坊の取り違えがスペイン内戦のメタファーになっているとは思えないので戸惑ってしまった。あくまで、二つの話題が並行して取り上げられている。もちろん、ジャニスが自分の娘ではないセシリアを自分の子にしてしまおうかと真実に蓋をしようとする行動はあった。しかし、それはフランコ政権下で行われていた虐殺、スペインの現政権が真相解明に積極的でなく予算を削っていることと対応するものだとは思えない。

真実に対峙するジャニスは真摯である。しかし、一方、フランコ政権がやったことと並べるには無理があるのではないか。これは並列ではなく、あくまで現代スペインの背景として描きたかっただけなのか。

個人の真実と国家の真実は確かに繋がってはいると思うが、まだしっくりこないものがある。

エンドロールの最後の字幕翻訳者に「松浦美奈」と出て、とても驚いた。彼女は英語だけでなく、スペイン語やフランス語もできるのだ。いやはや、すごい人がいるものだ。

そして、ジャニスとアナの関係性は、『最初の悪い男』のシェリルとクリーとの関係性とも似ており、自分が世間知らずであることを改めて感じた。


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