いつかの君へ
人が考えることは実現できる。
はずだった。
いつから夢を見なくなったか。
現に囚われてしまったか。
子供の頃はたくさん夢を見ていた。
ぐりとぐらの大きな大きなカステラ。
空を飛んでどこでもドアで世界旅行。
宇宙から見る地球はどのくらい青いのか。
お菓子の家はほんとに全部食べきれるのか。
楽しかったなあ。
小さい頃は本当になんにでもなれると思ってた。
けれど実際は違ったんだ。
ふわふわのカステラは誰でも簡単に作れた。
どこでもドアが実現するなんて思わなくなった。
タケコプターで飛びたいとすら思わなくなった。
宇宙に行かなくてもネットで調べれば満足した。
お菓子の家なんてお金も時間もかかるだけだ。
大人になるにつれて知識が増えた。
タケコプターじゃ空は飛べないことを知った。
誰でも簡単に宇宙に行けるわけじゃなかった。
何をするにもお金がかかることを痛感した。
私はもう子供じゃいられなくなっていた。
純粋に夢を見ていたあの時には戻れないんだ。
大人にだって楽しいことはたくさんある。
私はお酒もタバコも好きだし買い物も好き。
スマホ一つで本当に色んなことができる。
旅行も美味しいものも綺麗な景色も見に行ける。
その気になれば世界一周だってできる。
でもそうじゃない。
家の壁にシールを貼って怒られたり。
近所の犬に追いかけられて泣いたり。
空き地でボール遊びをしたり。
ほんの半径数百メートルの世界が好きだった。
毎日が冒険で楽しくて仕方なかった。
小さな世界で無限の可能性を夢見てたんだ。
今になってそれが羨ましくなった。
あの頃にしかできなかった事だと知った。
現実はそう甘くない。
嫌な事は大人になればなるほど増えていく。
楽しいことは当たり前じゃなくご褒美になった。
なんだかそれがすごく悲しい。
もしも僕に子供ができたらどんな事を伝えるだろう?
沢山遊んで泣いて笑って
よく食べてよく眠ること。
沢山の夢を見て
少しずつ現実を知ること。
落ち込むことがあっても
ちゃんと立ち直ること。
夢中になれることを見つけて。
周りの人を大切にして。
父さんと母さんみたいになれよ
そんな事言えたらいいな。
でもまだきっとずっと先の話
だからそれまで自分に言い聞かす
子供に伝えたい事を自分に伝えてみる。
今の私ができていない事だらけだから。
とりあえずちゃんと食べてよく眠ること。
皆少し頑張りすぎているんだ。
きっと守りたいものが沢山あるから。
周りを見すぎて自分が見えていないんだ。
ちょっと立ち止まって。
上を見て。
高層ビルの隙間からでも
曇っていて太陽が見えなくても
月の見えない夜でも
空の広さは変わらないから。
下ばっか向いてちゃ見えるもんも見えない。
今日は三日月だとか
飛行機が横切ってるとか
梅の花が咲きかけているとか
どんな小さい事だっていい。
何かにきっと気づけるから。
ちょっとだけ心がスッキリするから。
一息ついたらまた歩こう。
今度は下じゃなくて前向いてさ。
鼻歌なんか歌いながら。
いつか空を飛べるかななんて考えながら。
子供の頃に思ってたほど
大人はいいもんじゃなかったけどさ。
子供の夢と幸せを作れる大人って
案外悪くないだろう?