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「聞くこと」に集中しすぎると、相手の本質を見失う
「人の話をよく聞くのが大事」とは言われますが、そもそも「人の話をよく聞く」って何なのさ? という気持ちになることが日常生活を営んでいるとよくありまして、思うところを書き留めてみる次第です。
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というのも、すべての人が、思っていることのすべてを、いついかなる場合でも素直に発言しているわけではないから。
照れとか見栄とか恥ずかしさとか「このように思われたい・思われたくない」などの感情が、発言とセットとなってアウトプットされている場合が多いかと思います(わたしはそうです)。
さらに、人の心は移り変わるものなので、その感情自体が同じ形では留まっていないもの。
だから「話をちゃんと聞こう!」と、相手の言葉そのものを正確に聞こうとするあまり、相手の感情や本当に伝えたいことを見落としてしまう場合があります。
ですので「ええ? あのとき言ってた話と違うじゃないか」とか「○○さん……?そんなこと急に言うなんてひどいわ……」といった場合、
大事なのはその発言内容の真偽ではなくて、発言の背景にある思いに目を向けてみると、ヒントがあるのかもしれないなあ、と思います。
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以前、心理カウンセリングの学習をしたときの教材に「傾聴」のことが書いてありました。
いわゆる「傾聴」においては、単に相手が言っていることを情報としてそのまま「聞く」というよりは、相手の気持ちや意図などの背景を含めて理解し、共感し受け止めることが大事なのだとか。
ただ言葉を耳で聞くだけでは不十分で、相手の感情や価値観を尊重することが重要。
例えば「仕事が大変で……」と言う人がいたとき、表面的に「へえー、そうなんですね」と聞くだけでは、それは傾聴ではないので、
「それは大変でしたね……(共感)」と相手に寄り添ったり、「もっとがんばりを認めてほしいのでは?」「もしくは、もっと助けてほしいのでは?」などと、言葉の裏にある気持ちをくみ取ることが大事だという考え方があったりします。
また、自分の既存の価値観や解釈をもとに話を聞いてしまう人は、本当には相手の話を聞けていなかったりします。「この人はこういうタイプだから、きっとこういうことを言いたいんだろう」と決めつけながら聞くと、無意識に相手の話をフィルターにかけてしまい、純粋に聞けなくなるとか。
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カウンセリングの場のみならず、ふだんの雑談でも相手の気持ちを想像したり、適切な反応をすることでコミュニケーションは円滑になっていくもの。
たとえば、相手の話を黙って聞くだけではなく、適切な相づちや共感の言葉を返すことで、相手が「この人はわたしの話に興味をもってくれてる」と感じてリラックスしたり、「どう感じた?」「それはどうしてそう思ったの?」みたいな相手の話を掘り下げる質問をすることで、相手の気持ちを引き出すことができる場合があるわけです。
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ただし……、「傾聴」は確かに大事だけれど、やりすぎるとコミュニケーションのバランスが崩れることもあるな、と思うのも事実です。
相手が話しやすい雰囲気を作りすぎると、話が止まらなくなってしまったり、逆に「この人なら受け止めてくれる」と思われて精神的な依存が生まれることもあったり。そうなると、自分の負担がどんどん増えて、結果的にしんどくなることもあります。
だからこそ、どこまで聞くか、どこで区切るかの線引きは大事なのであります。「この場面ではしっかり傾聴する」「この人には適度な距離感を保つ」みたいに、意識的に使い分けることが必要です。
あと、個人的に思うのは、「傾聴」って相手にとって必ずしもプラスになるとは限らないということ。
・「話を聞いてもらえる安心感」が成長につながる場合もあれば、
・「聞いてもらえること」に甘えて、相手が問題を解決しようとしなくなる場合もある。
だから、誰にでも無制限に「傾聴」するのではなく、場面や相手によって用法・用量を調整するのが大事です。
そのコントロールも含めて「傾聴」のうち、つまり相手の本質をきちんと受け止めるということなのでありましょう。
コミュニケーション、難しいわあと思うこともありますが、これからも広い視点での人間愛をもって楽しんでいきたいものです。