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この醜悪な怪物は大口を開いて、その姿に似つかわしい凄い口調で 「何ぞ御用?」と答えたのです。 2020/06/14

 飯野亮一『天丼 かつ丼 牛丼 うな丼 親子丼』を読んでいると、色々と食べたくなってきてしまうのであって、昼ごはんに近所の鰻屋のテイクアウトうな重をさっそく食べてみるなどした。鰻というといつもうな重なのだけど、蒲焼や白焼きをつまみに一杯やるようなことものんびりとやってみたいものだけど、なかなか子供がいるとのんびりつまむ感じにならないわけで、一人で文庫本でも持ちながらふらりと立ち寄るようなのがいいのかもしれない。

 自分より年配の画家·武内桂舟(文久元年<一八六一>生まれ)に逢った時に、天麩羅茶漬はどんなだったか、と聞いてみたら、「焼塩をちょっと載せて、上から湯を注いで茶漬るんだ」と答えた、と記している(『江戸の食生活』「天ぷらと鰻の話」昭和十四年)。「湯を注いで」 とあるが、「茶漬る」とあるから、「湯」は茶のことであろう。
飯野亮一『天丼 かつ丼 牛丼 うな丼 親子丼』P.106

 湯は茶のことであろうって、それよりも「茶漬る(ちゃづる)」っていう動詞の方が気になるわい、というわけでさっそくググったら小学館のデジタル大辞泉(を元にしているgoo辞書)が表示された。ラ行四段活用らしいので、茶漬らない、茶漬ります、茶漬る、茶漬る時、茶漬れば、茶漬れ!といった感じだろうか。

 午後は、カゾットの『悪魔の恋』を読む。呼び出した悪魔が変じた女性が、いつの間にか自分を呼び出した男に惚れてしまうというなんとも不思議なお話。悪魔が変じた女に惚れる話は数あれど、女が惚れる話は珍しい気がする。

 よく考えてみた結果やや安堵して、私は腰に力を入れ、両足を踏んばり、はっきりした、力のこもった声で呪文を唱え、声音を段々と大きくして行き、「ベエルゼビュート」と、ほんの僅かな間をおいて三度繰り返して、呼びました。
 戦慄が血管という血管を走りまわり、頭髪がよだちました。
 呪文をこう言い終えるやいなや、上の円天井の私の真向いに一つの窓が左右に開きました。さっと、陽の光より眩ゆい光が、この窓口から流れこんできます。大きさの点でも形相の点でも身の毛のよだつような賂蛇の首が、窓に現われ出ましたが、とりわけ、この駱駝は並はずれた大きな耳を持っていました。この醜悪な怪物は大口を開いて、その姿に似つかわしい凄い口調で 「何ぞ御用?」と答えたのです。
ボルヘス編『バベルの図書館 19 J・カゾット「悪魔の恋」』P.27- P.28

 しかし悪魔が出てきて開口一番、最初の台詞が「何ぞ御用?」って想像すると滑稽だよなぁ。「我が名はなんとか、私を呼び出したのはお前か」的なものを期待してたら「何ぞ御用?」って。まぁ突然呼び出されたら悪魔だってびっくりしているのかもしれないし、実際呼び出してみたら、そんなもんなのかもしれない。

 ちなみに本書は発表後、どこぞの秘密結社から重大な秘儀をばらしたことを警告されたらしいのだけど、カゾットが結社のメンバーではないと知って驚いた、なんて逸話もあるらしい。しかしどの辺がその秘密結社にとって公にしちゃいけない部分だったのか気になる。恐ろしい形相の悪魔に対しても強気でいけば従わせられるぞ、ビビったら負け、みたいなところかな。

 夜中に小腹が空いてカツ丼を食べてしまった。おそるべし、飯野亮一『天丼 かつ丼 牛丼 うな丼 親子丼』。

自分の好きなことを表明すると、気の合う仲間が集まってくるらしい。とりあえず、読んでくれた人に感謝、スキ押してくれた人に大感謝、あなたのスキが次を書くモチベーションです。サポートはいわゆる投げ銭。noteの会員じゃなくてもできるらしい。そんな奇特な人には超大感謝&幸せを祈ります。