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人生に打ちひしがれたときも、アイスクリームがあるのは救いだ。 2020/05/25

 休みが終われば仕事がある。日記を書いているせいなのだろうか、あ、今週もまた始まったと言うような、周期感を強く感じると言うか、繰り返される日常感が強まっているような気もする。それは外出などもなく、淡々と過ぎていく日々だったりするからなのかもしれないけれど。朝走り、昼作ったサンドイッチがすこぶる美味しかったので、月曜日にしては上出来な気がする。なんとなく仕事モードだと言う気分で長らく積んでたアレックス・バナヤン『サードドア』を手に取った。

 精神的資産の増やし方、とか自分の殻を破るとかって帯に書いてあり、なんというか内省的な話なのかしらと思っていたのだけど、全然そんなんじゃなかったし、何よりもある少年が困難や壁にぶつかりまくりながらも前に進むドキュメンタリーというのも意外だった。

 僕がインタビューした人たちはみんな人生にも、ビジネスにも、成功にも、同じやり方で向き合っている。僕から見たら、それはそれはナイトクラブに入るのと同じようなものだ、常に2つの入り口があるんだ。
 「まずファーストドアがある」と僕はマットに言った。
 「正面入り口のことさ。長い行列が弧を描いて読き、入れるかどうか気をもみながら99%の人がそこに並ぶんだ」
 「次にセカンドドアがある。これはVIP専用入り口で、億万長者、セレブ、名家に生まれた人だけが利用できる」。マットはうなずいた。
 「 学校とか普通の社会にいると、人生にも、ビジネスにも、成功にも、この2つのドアしかないような気分になる。でも数年前から僕は、常に必ず⋯⋯サードドアがあることに気づいたんだ。
 その入り口は、行列から飛び出し、裏道を駆け抜けて、何百回もノックして窓を乗り越え、キッチンをこっそり通り抜けたその先に、必ずあるんだ。
アレックス・バナヤン『サードドア』P.334 - P.335

 サードドアとはこういうもので、世の中の99%の人のやり方に従って順番待ちをしている必要なんかないのだ、列を飛び出して、自分の頭で考えて動け、という一方で、そうした結果、動いた分だけめちゃくちゃ失敗するし、めっちゃ凹む、という等身大の姿がそこにはある。成功への抜け道、と帯にあるけれどこれは別に抜け道なんかではなくて、多大な努力と挫折の積み重ねの上にできた獣道な訳で、サクッとショートカットしてラッキーラッキーラッキーマン、みたいなことではないのだと思う、もちろんそこにはないよりはあった方が良いテクニックもあるのだとは思うけど。

 「お前がわかってないのはここさ」とエリオットが言う。
 「お前はみんなが、自分のやったこと自体に興味を持ってると思ってるだろ。なんせ有名なテレビ番組の話だしな。でも大事なのはそこじゃない。伝え方こそが大事なんだ」
アレックス・バナヤン『サードドア』P.136

 伝え方次第で、なんでもないことも面白くなるし、面白いことはもっと面白くなる。これは本当にそうだなぁ、などと思いやや反省するところもあって、基本的に他人は自分になんか興味を持っていないと考えているのであまり自分のことは話さないし、簡潔に済ませてしまうのだけれど⋯⋯。

 見出しとか映画は、物事を白はっきりさせて描くことが多い。でも僕にはわかってきた。真実は決して白か黒かで割り切れるものじゃない。グレーだ。すべてはグレーなんだ。
アレックス・バナヤン『サードドア』P.194

 すべてはグレーの濃淡、グレースケールの中で生きているってのは昔誰かに話したことあるな、などと思いつつ、モノクロ写真のグレースケールの階調というのは驚くほど幅広かったりするのだけど、色調の違いを捉えられる解像度を持った目と、実際に調整できる精度がないと、グレーだとわかっているだけでは何もできなかったりもする。濃淡の調節といえば、黒に白を混ぜるとグレーになるのだけど、コーヒーにミルクを混ぜると茶色だなぁ、なんて思っていたのだけど、なんのことはないそれはコーヒーが黒く見えるくらい濃い茶色だからであってまったく当たり前のことだった。コーヒーが飲みたい。

 他の人は報告書の上っ面しか読まないのに、バフェットは小さな活字の上から下まで丁寧に目を通し、一言一句をチェックして手がかりを探すんだ。
 脚注を読むのは天才でなくたってできるよね。選択の問題なんだよ。時間をかけて、努力に努カを重ねて、他の人がやりたくないことまで引き受ける。それを選ぶかどうかだ。
アレックス・バナヤン『サードドア』P.220

 すべからく結果を出している人は見えないところで何かしらの努力をしているものだと思うけれど、本人にとっては当たり前のことで、努力だなんて思っていないことも多い。というか努力だと思ってやってるうちはたかが知れている、ということなのかもなぁ、とすごい人たちを見ていると感じることがある。まぁそんなことより脚注と言えば、本編よりも脚注が長いという噂の『詳注アリス』のことを思い出した。今が読み始めるタイミングだろうか、バフェットのように注を読むスタイルで。それとやっぱり注と言えばバートン版の『千一夜物語』も思い出されるわけで、なんかこう注を読みたい気分になってきた。

 話を『サードドア』に戻すと彼は最終的にクインシー・ジョーンズと話してひとつの悟りを得る。

 僕は、成功と失敗は正反対のものだと常に思ってきた。でも今は違う。実はどちらも、挑戦した結果だという点で同じものなんだ。
 もう成功にはこだわるまい、失敗にもこだわるまいと自分に言い聞かせた。
 僕は挑戦し、成長することにこだわっている。
アレックス・バナヤン『サードドア』P.417

 ある種わかりやすい努力と成長への志向ってのがこの本の中には何の衒いもなく存在しているのだけど、日本ってそういうものに対して斜に構えるような傾向が強くなってしまったのはなんでなんだろうな。自己啓発で多用されすぎて胡散臭い言葉になってしまったのだろうか。それとも頑張っても無駄さ、どうせうまくいかないみたいな感覚の蔓延なのだろうか。まぁそんな主語の大きなことを嘆いてもあまり意味はないのだけれど、こんだけバリバリ、アクションを起こしまくる人たちに対して、ボーっとしてたらそりゃ勝てないわな。別に彼らが特殊でとびきり天才でなんでもうまくいくわけじゃなくて、動いた分だけ失敗しまくるし、凹むし、でも動き続けるだけといえばだけで、アイスが好きな同じ人間なんだけどね。

人生に打ちひしがれたときも、アイスクリームがあるのは救いだ。
アレックス・バナヤン『サードドア』P.93


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