第199話 想い合う。支え合う。
その宇宙子さんとのセッション終盤、そろそろエネルギーを閉じようかと意識をこちらに戻す準備を始めた時に、家の電話が鳴り響いた。
あっ、なんか電話来ちゃった。どうしよう……。
ところが一瞬だけ狼狽えるも、お知らせのように2コールだけ鳴ると音はすぐに切れてしまった。そしてその瞬間に気がついた。
そうか、この人だったのか……。
……
いつからか、家に一人か、あるいはリビングに一人の時だけ掛かってきていた2コールのサイン。
その始まりが、実家を出て旦那と暮らすようになった後、あきらが産まれシュウにも子供が産まれ、自然に彼と連絡を取らなくなった頃からだと今の私が気づくのにさほど時間がかからなかった。
改めて彼に意識を向けると、出てきた闇にウッと気分が悪くなった。今世、私を助けてくれていたシュウもまた、その実苦しみの中にいた。
考えてみればあれほどの出来事を体験し、彼も闇に飲まれていないという方がおかしな話なのかもしれない。
迂闊に開けないほどの濃い闇の存在を確認すると、光の軸を通した上で、深く潜っていくことにした。
「……お父さん。」
般若になった女の子は、まだ完全ではないとはいえ以前よりはだいぶ綺麗になっていた。彼女の意識にリンクしながら当時の父親に近づくと、彼はこんな闇感情の中にいた。
手遅れだった。娘を助けられなかった。
あの時自分があの場にいれば、こんなことにはならなかったのに……。
かつての父は自分のことを責めていた。
あの日自分さえ家にいれば、大事な娘が性被害に遭った上で亡くなることはなかったのにと激しい絶望の中にいた。
呆然として、憔悴しきった父が視える。惨たらしい(むごたらしい)娘の死を飲み込めず、小さな墓石を目の前にして生きていく意味も希望も何もかもを失って、ただただ生気なく佇んでいた。
大の男のぽつんと丸まった小さな背中。
その想いに触れて、涙が溢れた。今までどれほどの苦しみを、私の分まで背負ってくれていたのだろう。今世、シュウが私の彼氏となってくれた裏には彼の魂のこんな決意があった。
「この子のために何でもしよう。自分ができることならば、救いになるならどんなことだってしよう。」
そんな深い決意の元に、同世代として生まれ変わった私たちは出会うことになったのだ。
「お父さん、お父さん。痛かったよ、怖かったよ……。」
嗚咽混じりで父を求める少女の声は、しゃくりあげる呼吸によって半ば聞き取りづらかったが、彼にはちゃんと届いていた。
怖い思いをさせてしまって、助けられなくてすまなかったという痛々しい感情が寄越される。
『何をされるかわからなくて、それが一番怖かった。』
後でわかったことによると、少女はこの時、まだたったの十二歳だったのだ。
……
前に一度、宇宙子さんとのセッションにおいてこの女の子の浄化をしていた。けれども『闇』とはまことの無明。何度も何度も光を当て、そのたびエゴが「これで浄化が終わったかもしれない。」と“都合のいい”勘違いを繰り返したとしても、それでも奥から滲み出てきてなかなか尽きることはない。
集中的に数日かけてこの親子の闇を視ていくと、ようやく少しその山場を越えた。
二人共まだまだ苦しみ続けていたが、私である少女が感謝の気持ちを送ったことで彼に変化の兆しがあると、今度は父が少女の闇を押し上げた。
自分のことよりも、お互い相手をなんとか助けようと支え合う、切なくも想い合った愛が流れる。
父は自分よりも娘の無事を願い続け、娘は父親が元気になることを望んでいることが視えてくると、きっと“私”の性格はこのお父さんに似たのかもしれないとそんなことをふと思った。
親子となれ、恋人となれ、愛し合えたことが嬉しかった。
般若のお面が床に落ちて、割れて粉々に砕け散る。すると私の左手が左の頬を何度も触り、確かめるように呟き続けた。
「無くなってる。般若のお面、無くなってる。私のお顔、人間のお顔に戻ってる……。」
お父さんありがとう、お父さんありがとうと心からの感謝を大好きな父へと向けると、報われ始めた彼の魂はそれからしばらく長い時間、男泣きに泣いていた。
(参考)
第42話 『着信』
第158話 『鎖縁』
written by ひみ
⭐︎⭐︎⭐︎
実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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この2コールの着信ね、前々回掛かってきたのは12月の冬至の直前、そして前回はなんとたったの数日前です。
彼に限らず、人の意識がどれほど深くもがき続けるのかが、未だに着信があるということからもわかっていただけると思います。
浄化ってきりがありません。悲観する必要はないけど、終わる浄化もあれば、ずっと続く浄化もあります。そういうもんだと思ってください。
ただ、「終わった」と都合よく勘違いするのがエゴです。エゴをよく観察してください。エゴを見つめてください。
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←今までのお話はこちら
→第200話 約束の指輪
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