セブンイレブン・ジャパンの八代目儀兵衛企画は、その味だけでなく、マーケティングの勉強にもいい。
最近、これしか食べてないんじゃないか? と思うほど、毎日買って食べている。
「八代目儀兵衛」の名前を聞いても、多くの人が「それ、何の会社?どこの老舗?」っていう感じでしかないかもしれないし、セブンイレブン・ジャパンの今企画で初めて名前聞いたという人も多いかも知れない。
「八代目儀兵衛」ってなんなの?というと、きっと一般的なカテゴリーでいうと(飲食店運営もやってる)「お米屋さん」という位置づけになると思う。自社がお米を作って販売しているというイメージもあるかもしれないが、
であり、同社の企業情報でも、「米及び関連商品の販売・飲食店運営」とある。
しかし、”米及び関連商品の販売”、といっても「業務用米卸」、「法人向けギフト」、「オンラインストア」と、B2B/B2Cが含まれ、そしてそれらと「飲食事業」によって培ったノウハウによって、「ソリューション」、「監修・ライセンス」というサービスが成り立っていると考えられる。
※行列でなかなか席がとれない同社の飲食業「米料亭 八代目儀兵衛」はこちら⇣
今回のセブンイレブン・ジャパンとの企画については、「ソリューション」に位置づけられるようだ。
そのソリューション内容としては、以下のようになっており、
セブンイレブン・ジャパンの例に関しては次のように関わっているとのこと。
つまり、コンビニに中でも主要商品であるおにぎりが、八代目儀兵衛の力で向上させるというプロジェクトであるということがわかる。
八代目儀兵衛の中の人の声を聞くと、セブンイレブンの仕入れる米などから八代目儀兵衛のノウハウを活かしてベストなお米の組み合わせや提供の方法を生み出したとのこと。これは、ある意味「コンビニおにぎりのイノベーション」である。
さて、ここでわざわざ「イノベーション」という言葉を使ったのは、その意味するところが、もともとは今一般的に思われているような”技術革新”ではなく、生産手段や資源などを異なる方法で新たに結合すること〜「新結合」だったからである。「新結合」の他には、「新しい使い方」、「新しい切り口」、「新機軸」や「新しい捉え方」といったのが本来、そもそもシュンペーターが定義した意味合いである。
※ちなみに以下、日経から出たシュンペーターの書は、岩波文庫版には載っていない文書や岩波文庫版より古い(初版の)訳書になってるので、一家に一冊な本。
※ちなみに「新しい捉え方」という意味合いでは、ベルガンティの『意味のイノベーション』を挙げておく必要がある。
さて戻ると、今回のセブンイレブン=八代目儀兵衛の企画というのは、まさに「新結合」であると思う。自社の資源なども見直しながら新たな価値を生み出すことに挑戦している。
こうした意味では、新しい技術を生み出そうとしたり、あるいは外で生まれた新技術を買収・パートナーシップなどで得ようとしている、こと「イノベーション」= technological innovation という勘違いとは違う動きが、セブンイレブン〜八代目儀兵衛のパートナーシップにはある。
セブンイレブン側のマーケティングという観点で見ると、”おにぎり”に注目したところが非常に注目に値する。
おにぎり、コンビニにおいて目のつくところにフェイスがある傾向のある商品であり、かつ定番商品である。
この企画では、自社がすでに販売している商品について、その商品群の中での差別化を図っている。つまり、インストア内での差別化戦略といえる。他社との差別化ではなく、自社内。ここはコンビニ業界ナンバーワンらしい戦い方だと思う。
そして、おそらくこの企画の過程(あるいは始まり)には、顧客インサイトとして
”コンビニおにぎり=冷たいしそこそこの味にしかならない”
といったパーセプションの存在があったのではないか?
ちょうどこの週末、スタッフで山関係のイベントに入り、食事としてコンビニおにぎりが配られたのだが、「コンビニのおにぎりはおいしくないから食べない」という女性数名に実際に出会ったのだが、きっとこういう人は少なくないのだろう。
と考えると、セブンイレブン=八代目儀兵衛のおにぎりは、”コンビニおにぎり”のパーセプションを覆している。
↑ここ、重要。
概して「パーセプション・チェンジ」は、広告やPRの仕事のように思われがちだが、実は(ブランド体験同様)それの立役者は“商品そのもの”であったりもする。
お客さんの頭の中にあるイメージがパーセプションなので、それを変えようとする方法は正直なんでもいい。パーセプション・チェンジのためのアイテムやチャネルは“おにぎり”そのものもいいわけだ。
ただし、そこにはお客さんの頭の中にあるものと、新たに提供するものと間での「差分」がなければいけない。これはどのようなアイテムやチャネルを使おうが共通する。そして新たな「差分」は、企業側として理想とするものであり、かつお客さんに受け入れられるものでなければ、「パーセプション・チェンジ」とはなりえない。
今回の企画については、セブンイレブンは単純に他社と競合する新商品を開発しようとしたのではなく、自社の資源に目を向け、顧客のインサイトに注目し、「新結合」という本来の意味でのイノベーションで、自社のアイテムのパーセプション・チェンジを行う商品開発を行ったのだろう。
そうした点で、セブンイレブン=八代目儀兵衛のおにぎりについては、そのものの味だけでなく、その裏側の企画過程を想像し、そこからのマーケティングや商品開発への学びも得ながら味わうのがいいのではなかろうか。
というわけで、セブンイレブンさん、もう定番化してください。
お願いします。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?