認知症の人はどんなことから、どの順番で忘れるのか? その症状について知ろう!
我が国では、2025 年時点で認知症を罹患する高齢者数がおよそ700 万人に達して、65 歳以上の約20%を占めるようになると予測されています 1)3)。
認知症の代表的な症状といえば「物忘れ」ですが、ここでは認知症の方の物忘れがどのような順番で進行してしまうのか、具体的な行動や症状を紹介しながら、関わり方のポイントや対応方法についても解説します。
1,認知症になると、なぜ忘れてしまうの?
認知症の中でも特に多いタイプとされているアルツハイマー型認知症の場合には、物忘れといった「記憶障害」に続いて、「見当識障害」も起こしやすいと指摘されています。
見当識障害とは、「今がいつかという時間の感覚」、「自分がい る場所がどこか」などがわからなくなる状態を指しています 。
1-1 記憶障害で失われる、6種類の記憶とは?
「記憶障害」とは、主に自分が体験した過去の出来事などに関する記憶が抜け落ちる認知症の障害(中核症状)のひとつです。本人が忘れたという自覚をもつ物忘れと異なり、自覚がないために日常生活に重大な支障がでます。
記憶は時間軸と内容で分類でき、それをまとめた図を下に示します。
ここでは、記憶障害に伴って失われる記憶の具体例を提示して忘れやすい順から紹介します。
(1)即時(短期)記憶
「即時(短期)記憶」とは、数十秒から1分程度と非常に短い期間の記憶のみ残る、直近の記憶を指します。
例
・今日の日付をさっき教えてもらったのに、すぐに思い出せなくなる
・物の置き場所についての会話を直前にしていたのに、すぐ忘れてしまう
(2)近時記憶
長期記憶の中でも、数分から数日間かけて残る記憶の内容を「近時記憶」と呼んでいます。
例
・先日過ごした祝日の名前や、昨夜の食事の内容を忘れる
・数分前に確認した、子供の居場所を忘れる
(3)遠隔記憶
長期記憶の中でも、認知症を発病する以前に学習して定着していた記憶の内容を「遠隔記憶」と呼んでいます。
例
・自分が卒業した学校の名前を忘れる
・学生時代のクラブ活動を忘れる
・家族の顔や名前も忘れてしまう
(4)エピソード記憶
「エピソード記憶」とは、これまで実際に自分が体験してきた出来事(エピソード)や、経験してきた学歴や仕事内容などに関する生活体験そのものの記憶内容です。
例
・昨日家で過ごした行動内容を忘れる
・家族旅行で体験したイベントの出来事そのものを忘れる
(5)意味記憶
「意味記憶」が障害されると、一般的なものや言葉の呼び方や意味を忘れてしまうことになります。
例
・花や動物の名称、歴史上の人物名など、これまで蓄えた知識内容に障害が生じることにより、それらの名称を実際の名前で呼ぶのではなく「あれ」、「それ」などの指示語が会話に増える。
(6)手続き記憶
「手続き記憶」とは、本人が繰り返して以前から長期に渡って学習や練習により、自然と身体に定着しているスキルや無意識に記憶している内容を指しています。仮に認知症になっても、現実的に体感して獲得した手続き記憶自体は比較的忘れずに残りやすいと考えられています。
例
・自転車に乗るテクニック
・ピアノを弾く技術
・洗濯や食器洗いなどの家事作業
1-2 「見当識障害」の主な症状
「見当識」とは、現在の日時、場所、人物、そして自分が置かれている周囲の状況などを総合的に判断して理解できる能力のことです。
見当識障害は、主に次の3種類に分類されています。
(1) 時間
まず、最初に出現すると言われている見当識障害は、時間感覚が理解しにくくなる症状です。
具体的な日付や時間を間違えるのみならず、春夏秋冬の季節感や1日における朝、昼、晩の時間的な認識がとれなくなるせいで、朝食を食べたかどうか自信がなくなります。
(2) 場所
場所に関する見当識障害としては、「街並(まちなみ)失認」と「道順障害」が知られています。
「街並(まちなみ)失認」は建物や風景に関する識別が困難になってしまい、「道順障害」では通り慣れた道順でもどういった道を通り、どの方角にたどり着けばいいか判断できなくなります。
(3) 人
認知症に伴う見当識障害の症状が進行して、過去の記憶さえも徐々に失われると相手と自分がどんな関係かが判別できなくなります。
自分の名前や生まれ育った出身地などに関する記憶を失い、家族や親しい友人などとの関係性も理解ができなくなります 。
2,認知症を早期発見するには?
認知症は早期発見をして適切な治療を行なうことで、進行を遅らせ、症状を改善することができます 4)。
認知症の多くは物忘れから始まるとされていますが、老化による物忘れとは異なります。どのように認知症を早期発見すればよいのでしょうか?
2-1 普段の生活で見られる初期症状
「認知症」は、何らかの脳の病変により認知機能が低下することで、社会生活や日常生活に支障をきたした状態であると考えられています 5)。
認知機能は、近時記憶・遠隔記憶などを含む記憶、時間・場所に関する見当識、判断力と問題解決力、地域社会における活動能力、金銭管理を含む家庭生活力、および学習実行機能などを意味しています。
「認知症の始まりではないかと疑われる言動」をまとめた初期症状を大きく分類すれば、以下のようなものがあげられます。
物忘れがひどくなる(どこに置いたかわからない、直前に起こったことを忘れる、話した内容を忘れる)
判断力や理解力が衰えている(計算ができない)
場所や時間がわからなくなる(自分がいる場所がわからない)
意欲がなくなっている(好きなことに興味を持てなくなる)
不安感が強い
人柄が変わる
3,認知症の症状が確認できたらどうすればいい?
高齢者が自ら認知症の初期段階に出現しやすい認知機能や生活機能に関する能力低下を簡便に評価できれば、独居の高齢者であっても早くに認知症の初期症状に気づいて早期的な生活支援活用に繋がることが期待されます。
認知症の症状が確認できれば、早期的にかかりつけ医に相談、あるいは認知症外来など専門診療科を受診しましょう。
3-1,まずは病院で診断してもらおう
万が一、家族に認知症の疑いを認めた際には、まずは病院など医療機関で専門医に相談しましょう。
認知症に症状が類似している他の病気が隠れている可能性も検討されますし、適切な治療や介護を受けるためにも、どの種類の認知症かを診断してもらうことは重要です。
3-2,家族としての心構え・関わり方のポイント
認知症を抱えた方にとっては、その事実と共存しながら安心して生活できる環境を整備することが重要なポイントとなります。
具体的には、家族として本人を責めない、あるいは認知症に関して正しい知識を身につけるなどの適切な心構えや患者本人との関わり方を認識する必要があります。
3-3,関わり方の具体例
周辺の人々を困らせる認知症の症状ばかりに目を向けるのではなく、認知症を患った本人の変わらない部分の本質をしっかりと観察して、あらゆる状況に応じた必要な手助けを多様な場面で実践することが重要です。
例えば、規則正しい生活を過ごすために、1日のスケジュールをメモ書きにする、あるいは予定している時間を効果的に本人に知らせるために、スマートフォンのカレンダー機能やデジタル時計を活用するなど工夫しましょう。
4,まとめ
これまで認知症の人が物事を忘れる順番と具体的な症状を中心に解説してきました。
認知症における記憶障害では、即時記憶、近時記憶、遠隔記憶、エピソード記憶の順番に忘れていき、見当識障害では、時間、場所、人の順番に認識できなくなると考えられています。
本人の日常生活における些細な変化をできる限り見逃さずに、心配事や不安点などがあれば専門の医療機関で主治医に気になる症状や状態を具体的に説明して、相談しましょう。
【引用参考文献および、参考資料】
1) 厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室:
「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)―認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて―」:平成27 年1 月 27 日
DOI http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12304500-Roukenkyoku-Ninchishougyakutaiboushitaisakusuishinshitsu/02_1.pdf ).2015.
2) 河野 和彦著:『完全図解 新しい認知症ケア 医療編』(介護ライブラリー) :講談社:2012年11月30日p. 24-27, 82-93.
3) 宇良 千秋, 宮前 史子, 佐久間 尚子, 新川 祐利, 稲垣 宏樹, 伊集院 睦雄, 井藤 佳恵, 岡村 毅, 杉山 美香, 粟田 主一ら:「自記式認知症チェックリストの開発(1)尺度項目案の作成と因子的妥当性および内的信頼性の検討」:日本老年医学会雑誌. 2015 年 52 巻 3 号 p. 243-253.
DOI https://doi.org/10.3143/geriatrics.52.243
4)河野 和彦著:『ぜんぶわかる認知症の事典』:成美堂出版:2016年4月10日:p. 100-105, 118.
【参考】Medic Artとは
医療と美術の融合で、新しい視点を切り拓く
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