【ドローンが挑む気候危機】森林火災で荒廃した大地の再生
ドローン産業においてSDGsやESG、気候変動に関心の高い投資家からいま最も注目されている業種はドローンによる森林再生(drone reforestation)事業である。先月(2021年9月)もTesla社やSpaceX社に初期から投資しているDBL Partners、Shopify社CEOのトバイアス・ルーク(Tobias Lütke)、Salesforce社CEOのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)率いるTIME Venturesなどがドローンによる森林再生事業を手掛けるスタートアップに出資を行っている。
ドローンによる防災(災害発生前)・減災(災害発生時)、特に後者の災害時におけるドローン活用は当たり前となりつつあるが、災害復旧・復興においてもドローンを使用したオペレーションが数多く考案されている。
本稿では山火事(森林火災)におけるドローン活用を概観しつつ、森林火災被害からの再生・回復で活躍するドローンプロジェクトに触れる。(尚、本稿は過去のTweetをベースに構成したものです。)
頻発する大規模森林火災
世界各地で発生する大規模な森林火災によって近年では毎年2,000万ha以上の森林が焼失している。その原因のひとつと見られているのが気候変動だが、森林火災の被害を抑えるべく森林火災予報やバーンアウト作戦による消火活動などにドローンが使用されている。
空飛ぶIoTデバイス
防災・減災にドローンが活用される理由は機動力とスピードを具えた「空飛ぶIoTデバイス」だという点にある。ドローン(drone)の国際正式名称である「Remotely Piloted Aircraft」(略して「RPA」)が示す通り、リモート飛行することで災害時に空を使用した情報収集(災害状況把握)やアクションの実行が可能となった。(尚、本稿では国際正式名称ではなく米英を中心に英語圏で一般的な呼称「Unmanned Aerial Vehicle」の略「UAV」を以下で用いることとします。)
森林火災などの場合、ヘリコプターでは煙の中や狭い場所を飛行できないが、ドローンは視界の悪い夜間や煙の多い場所でも飛行できるという「空飛ぶIoTデバイス」としての特徴が災害時に特性として活きることとなる。
ドローンによる山火事消火作戦
グリズリークリーク火災でコロラド州の消防隊が行ったドローンを使用したバーンアウト作戦は「空飛ぶIoTデバイス」としてのドローンの特性が活かされた適例のひとつと言える。
ドローンによる山火事予報
ドローンによる山火事監視は森林火災防止の基本であり、インドネシアでは軍事グレードのドローン(UAV)が使用されている。軍事グレードのドローンに搭載された合成開口レーダー(SAR)などのセンサーで泥炭の地表から地下30cmまでの水分量を観測し、「hidden fire」の早期発見に努めている。
もちろん、山火事の監視にはスイスのWingtra社製テールシッター式VTOL固定翼ドローン「WingtraOne」やオランダのAvy社製VTOL固定翼ドローン「Avy Aera」など市販のUAVも使用されている。
さらに、モンタナ大学(University of Montana)AASOはドローンを用いた山火事予報の研究を行っている。
山火事災害後のトリートメント
さて、ドローンは森林火災の防災(災害発生前)・減災(災害発生時)といった災害対策だけでなく、山火事によって焼失した森林の再生、ダメージを受けた大地の回復にも活用されている。
ドローン森林再生に取り組む企業
ドローンによる森林再生事業に取り組むスタートアップにはイギリスのDendra Systems社、スペインのCO2 Revolution社、カナダのFlash Forest社、ニュージーランドのEnvico Technologies社、アメリカのDroneSeed社などがある。殊にDendra Systems、CO2 Revolution、Flash Forest、Envico Technologiesの4社はドローンで10億本以上の木を植えることを標榜している。
残念ながら、環境意識が低く且つドローン後進国である日本からはドローンによる森林再生事業を行うめぼしいスタートアップは出現していない。
空からの植林
これらの企業はドローンを使用して森林火災で荒廃した大地の調査とシードカプセル(seed capsule)の空中播種による空からの植林を主なプロジェクトとしている。これは農業用ドローン(agricultural drone)が長年実行してきた作業と共通するものであり、ドローンの得意とする分野と言える。
ドローンを使用すれば東京ディズニーリゾートの総面積(201万平方メートル)に相当するエリアの測量は数時間でマッピングが可能となり、人の手作業で苗を植えられる本数は1日約1,000本とされるがドローンを使用すると2人の人員で1日10万個のシードを空中播種することができる。
空から木を植えることは人が容易に入って行けない場所、浸食や土砂崩れの影響を受けやすい焼けた斜面などで特に役立ち、広大な大地の復元と生態系の回復に有効なはずである。だが、実際には問題も抱えている。
空中播種の課題
空中播種によって蒔かれたシードカプセルないしシードボール(種団子)の定着率は人が世話をしない限り極めて低い。DroneSeedの2020年の調査によるとドローン空中播種での針葉樹の定着率は0〜20%の範囲にとどまった。これは従来の飛行機やヘリコプターを使った空中潘種と定着率が同じことを意味する。
つまり、現状のドローン空中播種は手間こそ掛からないものの旧来の方法と同じく効率が悪いことになる。森林も人が手を加えないとなかなか健康に成長しない。従って、発育条件のよい着床となるようドローンによる精密なシードカプセルの射出が必要となる。
現状は試行錯誤の段階
荒廃した大地に降り注ぐ種子はリスなどの野生動物にとっては絶好の食糧支援物資となり、食べられてしまう。野生動物だけが災害から一時的に潤っても植物が育たなけば生態系は回復しない。という訳でリスなどに種子が食べられないようシードカプセルに唐辛子を混ぜるなどの工夫が繰り返されている。
定着率を高めるためにはシードカプセルが着床する場所が重要であることは大前提となる。そこで「空飛ぶIoTデバイス」ドローンならではとなるAI(人工知能)を用いたコンピュータビジョンでシードカプセルを撃ち込む場所を選定して飛行を制御する試みなどが行われている。
現状の低い定着率では種子不足の際に空中播種が適切なオプションとは言えない。それなのでDroneSeedは、林業用種子サプライヤーであるSilvaseed Companyを買収し、種子の需給バランスを調整しながらドローン空中播種の定着率向上を図っている。
また、森林再生にはそもそもの植生が重要となるが、必ずしも森林火災発生前に木目細かな植生調査が行われている訳ではない。ドローンによる植生調査は山火事監視と同時に並行して行えるので、やはり災害発生前からのドローン活用が要諦となる。
ドローン森林再生はグリーンウォッシュか?
しかし、空中播種による木の定着率が低い現状でドローン森林再生をビジネスとして謳うのは誇大宣伝であり、投資家を募るためのグリーンウォッシング(greenwashing)だと指摘する批判の声も当然ながら存在する。
ドローンによる森林再生事業を行う企業は空中播種による木の定着率を改善して、SDGsやESG、気候変動対策という時勢に乗って資金調達しただけのグリーンウォッシング企業とならないための結果が求められている。
ドローンによる森林再生への期待
ドローンデリバリー(drone delivery)事業では環境負担(環境負荷)軽減への貢献で「環境イニシアチブ賞」を受賞したドローン(UAV)だが(以前の記事『【ドローンデリバリー】が環境イニシアチブ賞受賞』を参照ください)、森林再生でも環境問題に寄与するポテンシャルは十分に持っている。
現在は試行錯誤の段階であってもそう遠くない将来、空中播種による木の定着率問題が解決され、ドローンによる森林再生が環境問題のゲームチェンジャーとなっていることを期待したいと思う。