三宅香帆(著)『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』|第二章:「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級
三宅香帆(著)『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本を読み進めています。
現在、『第二章:「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級』まで読み終えたところです。
第二章では、大正時代の読書の状況について、解説がされています。
特に、新たなサラリーマンという階層の登場と読書の関係は、興味深いものがありました。
大正時代の出来事
大正時代は、明治45年間と昭和63年間に挟まれた、わずか14年間の時代です。そのため、個人的には印象の薄い時代となっています。
しかし、大きな出来事としては、1914年(大正3年)から1918年(大正7年)にかけての「第一次世界大戦」と、1923年(大正12年)に発生した「関東大震災」があげられます。
これらの出来事は、経済的にも人々の生活にも大きな影響を与えました。
大正時代の読書ブーム
「第一次世界大戦」の主な戦場は欧州でした。そのため、欧州からの輸入が滞る一方、輸出が拡大したことによって、日本は好景気となりました。
しかし、その後の「関東大震災」によって、経済的に大きなダメージを受けました。
こうした背景の中、読書人口は増大します。
本書では、その要因として以下の4点が挙げられています。
・図書館の増設
国力向上のために、小学校を卒業した人々の識字率を下げないための国の政策でした。
・再販売価格維持制度の導入
出版社側が定価を決定する制度です。この制度によって書店は客に本をねぎられることがなくなりました。
・委託制度の広がり
この制度により、書店は売れる見込みのある本を大量に仕入れることができるようになりました。
・「大学生」の増加
私立大学が次々と認可され、高等教育を受けられるようになり、「大学生」という身分の青年が増えました。
これらの要因によって読書人口が増大し、書店の数が急激に増えたのも大正時代でした。
サラリーマンの登場
大正時代は、労働者とエリートの間にサラリーマンという中間層が生まれた時代でもあります。
労働者でも富裕層でもない、都会の企業で働くことを選択する人が増えました。
しかし、この頃のサラリーマンは物価高騰や失業に苦しんでいました。
それでも自分の見栄えを気にして、給料に見合わない洋服を買いながら働き続けていたのです。
そういうサラリーマンの間で大ヒットしたのが、谷崎潤一郎著『痴人の愛』でした。
この作品は、1924年から大阪朝日新聞で連載された小説です。1924年といえば、関東大震災の翌年にあたります。
こういった情報から私は、バブル崩壊後の1995年から1996年に日本経済新聞で連載された、渡辺淳一著『失楽園』のことを思い出しました。
経済的な背景と小説のストーリーには、共通点があるように感じるのです。
次章への期待
次の第三章では、昭和時代の戦前・戦中の読書事情についての考察に進みます。
昭和時代は、戦前と戦後では日本は全く状況が違います。
ある意味では、明治維新以来の変化が起こったと言えます。
戦前・戦中の厳しい社会情勢の中、人々はどのようにして読書をし、どのような本を読んでいたのか、新たな発見が得られることを楽しみにしています。
画像出典:写真の中の明治・大正(https://www.ndl.go.jp/scenery_top/)