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【恋愛小説】あの日も満月だったから✾5mins short love story✾
夏が過ぎて9月下旬、夜は少し肌寒い。
陽が落ちる時間が早くなってきて、まだ6時前なのに少し薄暗い。太陽が遠ざかった空の上の方から段々と、藍色が空を染め上げていく。下の方はまだ陽の光に照らされた黄色が朱色になって、やがて藍色と混ざり合っていく。
私の好きな時間だった。
一日の最後の講義が終わり、貴方と並んで歩く時間。あの教授がどうとか、課題やったかとか、今日の夜何食べるとか、そんな他愛もない会話が大事だった時間。
ふと空を見上げると、今日は満月だった。
藍色に染まっていく空に、白く輝いていた。
「月が綺麗ですね。」
私の目線の先を辿った貴方からの言葉だった。少し間を置いて、貴方が付け加えた。
「……あ、いや、なんでもない。」
『綺麗だよね。ほんと!』
月を見ていた私には、貴方の顔が紅くなっていることには気がつかなかった。
「それはそうなんだけど…」
貴方が何か言いたげな表情をしながら、他に話題を変えたことに気づけなかった。
❁
大学の図書館で席を探していたら、静かに自分の隣の席に置いてある鞄をどけてくれた貴方。
課題の資料を忘れたら、自分のついでだと言って手伝ってくれた貴方。
一緒にお昼御飯を食べて、当たり前のように空きコマを一緒に過ごしてくれた貴方。
月が時間をかけてゆっくりと満ちていくように、貴方と一緒に時間を過ごすほどに、私の心は貴方への想いで満ちていった。
❁
大学で必修科目だった日本文学初級。
何気ないいつもの教授の雑談だと思っていた。
「この本の著者である夏目漱石は英語の教師もしていました。彼の翻訳にとても有名な一節があります……」
そして、あの日の貴方の言葉の意味を知った。
❁
大学卒業後、一ヶ月が経った。まだそれほど経っていないのに、私の中から何かが欠けているような感覚だった。
それは、貴方だった。
ようやく、私の心の中に貴方への想いがあることに気づいた。
今日は、満月。
藍色の中に一つ、白く輝く月を見る度に、
今も私の心は貴方で満ちる。
『あの日も満月だったから』 FIN
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