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星新一のショートショート「ボッコちゃん」
仕事が終わると大抵、そのまま真っ直ぐ帰らずにぶらぶらと夜道を散歩します。
歩いていると、さっきまで職場で纏っていた成分のようなものが、頭や背中からコロコロと後ろに落ちていく。そんな感覚があって、暫く歩いた頃には頭がスッキリしているんです。
そうやってスムーズに、プライベートなリラックスした世界へと自分を切り替えていく儀式のように捉えています。
世界の切り替えといえば、小説もそういう役割を担っていますね。
私は本を読むのがスローで、そんなに沢山の本を読むことがなかったのですが、読者好きの友人が「読書は最もお金のかからない娯楽」と言っていて、それが妙に腑に落ちたのもあって、今年は自分にしてはわりと色々な本を読みました。
で、今年読んで面白かった本のひとつ。それは星新一の「ボッコちゃん」という短編集です。
星新一に興味を持ったきっかけは、言葉の表現が豊かな人生の先輩がいて、彼女が中学生の頃によく読んで好きだった、と言っていたこと。
他にもわたしの周りで星新一は小学生〜中学生の頃に読んだ、と話す人がけっこういます。
図書室もろくに利用せず、本を読まない小学生だったわたしは大人になるまで知りませんでした。
さて、星新一。ショートショートと言われる超短編小説。読み始めるとすぐに幻想やSFの世界へ誘われ、瞬く間にハッとするオチがやってきます。それがなんとも軽快で、少々ブラックな時もあって、心地いい。
子供が読める分かり易い文章で、大人の心の弱い側面だったり、社会で起きていることの仕組みや文明の発達への皮肉を、ユーモアを使って品良く教えてくれている。
きっと子供の頃に読んだという人も、大人になってからもう一度読み返すと理解できる部分が増えてるんじゃないかな、と思います。
私が感じるのは、星新一の世界はどこかとても澄んでいるということ。どんなにブラックなことを描いていても重たくないし怖くない。それどころか、純粋に楽しい。読後感がきらきらしている。
夜眠る前に2つ物語を読むのが楽しみでした。散歩のような儀式を用意しなくても、あっという間にこちらの世界から不思議な異世界へスムーズに切り替わる。
ショートトリップから戻ってきた頃には、日常の疲れが吹っ飛んでいます。読む前の自分には知り得なかったユーモアエッセンスを授けてもらえるというおまけつきです。
またあの異世界を求めて読み返したいです。