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月食を詠んだ唯一の和歌がある!?いにしえびとと月食
今夜は皆既月食。月が地球の影に覆われ、月の形が変化することを月食といいます。
なかでも月全体が地球の影のなかに入る現象を皆既月食と呼び、赤黒く光る満月が見られるのです。
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昔の人は、満月が欠けたり、赤黒く変色する月食(かつては「月蝕」と書いていた)を不吉なものとして恐れていました。天体ショーも仕組みを知らなければ、こわいものだと思いますよね。
昔、月は「忌みはべる」タブーの存在!?
そもそも、月そのものが満ち欠けを繰り返す、生と死の象徴とされたので、月を見たり、月の光を浴びたりをタブー視されていたという背景もあります。
『竹取物語』では月の使者はかぐや姫を連れ去る敵であり、一説ではあの世からの使いとも言われています。『源氏物語』でも、「月見るは忌みはべるものを」(月を長く見ることはよくないこと)と書かれ、心を乱されて寿命が縮むと思われていたようです。
しかし、そんな「忌む」月を愛し、月の和歌を多く残した平安時代末期の歌人、西行は
「忌むと言ひて 影に当らぬ 今宵しも 破(わ)れて月見る 名や立ちぬらん」——より
「世の人たちは不吉だと言って月食の月の光にも当たらないようにする今夜、私はなおさらその月を見たい。奇人変人だとという悪い評判が立たなければよいのだが」
という意味の月食を歌に詠みました。
昔から、怖いといわれているものほど、あえて見たいという人がいたのですね。
今夜は442年ぶりの天体ショー
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部分食の始まりは18時9分。そこから1時間ほどかけて欠けていき、19時16分に皆既食となり、約1時間半、皆既の状態を楽しめます。20時42分から徐々に満ちてゆき、21時49分に元の満月に戻ります。
ちょうど観察しやすい時間帯なので、夜の早い時間に空を見上げるだけで観測できるでしょう。
今夜の皆既月食は同時に天王星が月に隠される「天王星食」が見られます。国立天文台によると、日本で皆既月食の最中に、惑星が月によって隠される惑星食が見られるのは、1580年以来、じつに442年ぶり。
なんと、戦国武将の織田信長などが活躍した安土桃山時代なのです!
天王星食は地域によって隠れる時間は違いますが、ほとんどの地方で皆既月食中に天王星が隠れるようです。普段は月の明かりで見えにくいぐらい暗い天王星ですが、今夜は月の光が暗くなる瞬間に肉眼で観察できるかも?
信長も見たかもしれない、天体ショーをさらに昔の西行の和歌に想いを馳せながら見てみませんか。
この時代に月食を楽しんで奇人変人だと言われることはないのですから。