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小説『終末ド真ん中』#6



「2527年…!?」
僕らが降り立った終末は、予想していたはるか未来なんかではなくてもっと目の前の世界。
さらに言えば…
「俺の…生まれる前?」
カイさんは放心状態だ。
僕のたった504年後、そして彼のたった504年前。

僕らの歴史のド真ん中は終末になっている現実、唖然とする以外なにも出来ない。

「というか…こんなもの習ってもなければ聞いたこともないぞ?」
僕らが恐竜の絶滅を知っているように、こんな終末が存在するならきっと歴史で習うに決まっているはず。
ちょくちょく謎が深まるばかりだが、解明するにはピースどころか基盤すらない。

頭を抱え、どうしようもなくなっているカイさんを横に、なんて声をかけていいか分からないまま女性の話を聞くことにする。

色々話を聞いていくと彼女はどうやら2307年にコールドスリープを始めた2281年生まれの26歳。

「ごめんなさい、ちょっと数字多くて…」
「ああ、2307年から来たことだけ覚えてくれれば大丈夫。」
時空の研究をしていたとは思えないほど数字の耐性がないが地下シェルーター特有のこもった熱の感じや腐ったような匂いの影響でストれるが溜まりやすいのも仕方ないのかもしれない。

「……。」
「あの、チョコ食べますか?」
「え?あぁ……。」
カイさんは起動しているコールドスリープを見逃さなかったが、僕は食料が欲しいが中々言い出せない彼女の目線を見逃さなかった。
ストレスと空腹の解消、その方法はチョコしかない。
少し溶けてしまっているチョコをぐにゃりとちぎり、二人に渡した。

「これ食べたら外行きましょうか。」
「え、あぁ…。」
僕らは僕らの話と一緒に今の世界がどうなっているかの話をした。
そうすると彼女はため息をつき、そうですかと一言。
「え、受け入れられるんですか?」
「えぇ…私が眠る前からその予兆がありましたから。」

2305年、彼女がシェルターに入る約2年前……。
「もうどこもこのニュースばっかり。」
最近どこのチャンネルのどの時間でも触れているニュース。
"巨大生物の正体とは!?"

海で見かけた謎の生物についてという記事がインターネットを通して様々なところの目に触れた。
それに合わせて世間はマスコットキャラクターを作り、観光地や
人々はツチノコやネッシー、UMA系統の楽しい噂程度だと思っていた。
……被害が現実味を帯びるまでは。

「まあ、私がここに入ったのは他の方々より後だったんだけどね。」
遠くの街で暮らしていた彼女は、ほとんどダメになっていたこの国の中でも比較的生物の影響をあまり受けない数少ない地域にいたため、生物の活動しない時期を見越し、物資を届けるためにこの街へやってきた。
しかしその見越したはずの予想は大きく外れることになる。

僕らが降りてきたこの地下は元々この街のシンボルにもなっているほどの研究所だったらしく、コールドスリープがあるのはそれが理由なんだとか。

「てか、巨大生物なんていなかったですよね。」
「まあ絶滅か人間のエゴによる撲滅だろうな…。」
巨大生物の暴走、その行方はこの時代の彼女も未来からきた彼も知らない。
ここで自分はここに来た理由を一つ思い出した。
「あ、そういえば単二ですよ。」
「え?いやぁ、ここにある機械は単二電池使わないだろ…。」
意味が分からなさそうな顔をしている彼女、僕らは目的を伝えた。

「あぁ…あるとしたら…。」
「え、なんかあるんですか?」
他が腐っていて彼女が腐らなかったもうひとつの理由。
彼女はコールドスリープマシンの中を借りたドライバーで開け、大きな箱を取り出す。
「これは…?」
「予備のバッテリー?」
なんかどうなっているか全く分からないが、大きなバッテリーがマシンに取り付けられているのが分かった。
どうやらそのバッテリーからも上手く供給されていたらしい。

「そしてさらに…」
また内側からバッテリーが出てきた。
彼女はその後もどんどん小さくなっていくバッテリーを内側からだし、最後に関しては安物のモバイルバッテリーみたいなやつだった。

「えっと..この7個目のこれ。」
まずそんな取り付けて大丈夫なのか、ていうかそもそも意味あんのかと思ったが、理屈では違ったとしても生命が維持できているのでそれが正解だろう。
彼女が外したのは大きくて真っ白い立方体。
その中から取り出したのは
「ごめんなさい、単1でした…。」
「そうだよなぁ…。」
頭では分かっていても、やっぱりムズ痒くなる。
というか充電式じゃないんだ。

「あ…!そうだ!」
彼女は何かを思い出したかのように隣にあった同じ種類で色違いの黒いバッテリーの電池部分を取り外す。
「いや、これも単1なんじゃ…ん?」
「…これは!!」
単1だけに決まっていると思っていた僕らが目にしたもの、それは間違いなく一筋の光へと変わっていき僕らに大きな可能性を与えてくれた。
「スペーサー…!!」
"スペーサー"、チェンジャーみたいに言った方が分かりやすいだろうか。
欲しい電池が足りない時にこれがあれば、別の電池を欲しい電池の種類として扱える便利グッズ。
わざわざ買おうと思って買わないが、あったら救世主くらい助かる100均の電池コーナーにちょびっとおいてあるアイテムである。

「中身は…単二!!」
僕はカイさんとギンギンに開いた眼で見つめあい、両手で小さいハイタッチを沢山繰り返す。
「単二電池ずっと余らしてたから…」
どの時代でも一緒なのかと何か嬉しくなり、彼女も巻き込んで3人でハイタッチを繰り返した。
残りの電池は後2つ。
真っ暗闇かと思われた世界の中、まさに電流が走ったような衝撃を浴びた僕らは素に戻ると、この空間の匂いを思い出してしまったので急いで腐った部屋を出た。


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