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第8回・ことばは生きている

ちょっとしたきっかけがあり、尾原和啓『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』(幻冬舎)を読んだ。出版は2017年9月。5年ほど前の本だ。
要約や感想はここでは割愛するが(著者の経歴や実績からして良書と言われるものであることは間違いない)、5年前の世界と今の世界の差がこんなにあるのかというのが正直なところだ。
たとえば 、今やUber Eatsの利用者はとても多いし、知名度も高い。だが、この本ではUber社は運転手と利用者とのマッチングを行う会社として紹介されている。AIについても触れられているが、現在の状況に鑑みれば、初歩的なことしかできなかったということがわかる。

決して、古いビジネス書には意味がないと言いたいわけではない。むしろその逆で、たった5年という時間のあいだに、世界は劇的に変化しているということを再確認できたことに大きな意味があると思っている。
この本の話題は、5年前における新しい世代についてだが、今はもっと新しい世代が誕生している。世代間のギャップをどうしていくかという問題は書かれた当初よりも複雑化しているだろうが、温故知新という意味でも、書籍によって時間を遡ることは有益だ。

さて、この5年のあいだにさまざまなことを痛感したわけだが、我々もそれだけの変化に適応しているということも事実だ。先の例をとってみれば、Uber Eatsを利用するとか、問い合わせにAIチャットボットを使用するとか、そういったことだ。
けれど、便利な世のなかになったものだな、と思っているだけでは、ずっと受動的に情報を得ることしかできないし、個人的にそれはおすすめできない。時代が変われば、ライターの脳もアップデートしなければやっていけないのだ。

コロナ禍といわれたころ、リモートワークが広がり、それによってもたらされた人間関係の変化やストレス、働きかたへの見直しなどの記事がネットで散見された。私も当時そのような記事を書いたことがある。少し前は「Chat GPTなどの生成AIに書かせないでくださいね」とわざわざ付言してくるクライアントさんに出逢ったこともあるが、芥川賞受賞作位である九段理江『東京都同情塔』は、著者曰く「5%は生成AIそのまま」だという。生成AIの利用の賛否はここでは触れないが、要はそういった時代になったのである。
多くのひとびとに影響を及ぼすことがらは、さまざまな報道で目にするので情報にアクセスしやすい。しかし、ただそれを時代は便利になったと思っているだけではなんの意味もない。

時代が変化しているということは、どんなジャンルにも共通することだ。科学技術の発展は目覚ましいが、文字の文化も同じ時間を経て変化している。
ことばは生きものだ。新語が生まれ、死語ができる。
どんな層にどんな表現が刺さるのかも、どんどん変わってゆく。
それは古いものを知らなければ気づかないことであると同時に、新しいものを知らなければ理解しえないことだ。
ライターというからには、そういった変化にアンテナを張りめぐらせておかなければ、ただ古い表現しかできない書き手になってしまう。
便利な世のなかになったものだな、と思うと同時に、それによって文字文化にも変化があるかもしれないな、くらいには考えていなければ、時代に適応することはできない。同じような文章しか書けないならば、それこそ技術の進化に甘えて自動化して任せておけばいいだけの話なのだから。

この文章も、1年後に読めば、なんて古いことをつらつらと古い表現で書いているのだろう、と自分で思うことになるかもしれない。
否、そうでなければならないだろう。
余談だが、田舎住まいをしているため我が家はこのnoteを書いている時点でUber Eatsの配達エリアではない。1年後には届くようになっているのだろうか。

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