すギョい名作!韓国映画『フィッシュマンの涙』の話(ネタバレ無し感想)
どんな経緯で表示されたのかは忘れたが、私の契約してるサブスクの全てと同じく、日頃ホラーやスリラーメインで観てるU-NEXTの画面に、突如こんな作品が現れた。
「何……コレ……」
2015年韓国、笑って泣ける社会派サスペンスコメディ(ここでもうジャンル解説としては情報が多い)……とあるが、それより何よりこの絵ヅラ。
サスペンス、と書かれているけどこれはガチ(素顔がお魚)なのか、それとも小道具(『スクリーム』のゴーストフェイス的な)なのか。
くわえて、本当に今更というかアレなんだけど、今や老若男女があらゆるジャンルで韓国文化に夢中な“韓流ブーム”だというのに、私は趣味の映画ですら韓国の作品に疎い。
話題になっていた『コンジアム』『新・感染ファイナルエクスプレス』を観たのと、『女神の継承』の予習に『哭声ーコクソンー』を観たのと、後はこの間U-NEXTで適当に韓国ホラーと思って観たら
“カマキリに寄生する虫が人間に寄生するようになったよ!というパニックもの”
だったとか、その位韓国映画や韓国ドラマにも疎いのだ。
なので、この魚人間が社会派サスペンスを繰り出してくるという作品についても勿論全く知らなかったし、“韓国ギャグ”のセンスみたいなコメディの傾向も捉えていない(平たく言えば、韓国のセンスだとこの仮面と特殊メイクの魚人間のコメディレベルが「マスク」的なおもしろなのか、「チューバッカ」的に真面目にリアルクリーチャーとしてなのかの意図が掴めない)。
しかし、こんな未知のジャンルとの予期せぬ出会いもサブスクの醍醐味。
コーヒー片手に早速再生してみたわけだが、93分後、私はすっかりこの魚人間が大好きになっていた。
冗長さや無駄な描写のなさは今まで観てきた韓国映画と同じで、サクサク進む展開はとても観やすい。
そして、嫌みのないユーモアを交えて笑わせてくれながらサクサク進んでいく中にも、登場人物達の性格が、メインキャラクターから脇役まで特徴的に小出しにされていき、
「この人はどんな人なのか」
がスルリと把握できる。
主人公の記者志望の男性も、奔放に生きつつくすぶりを抱える女性も、それぞれに“生きにくさ”を抱えながら、与えられた環境の中で、精一杯の努力の余地も与えられず精一杯の妥協をして生きている。
そして世間というのは「社会」というシステマティックなツラをしていてもあまりにも感情的で、都合のよさや、金と権力がらみの損得、何かを見れば大声で己の思想を掲げるための材料にしたがる思想メガホン人間や、容易に対立し、容易に煽動される脆弱な流動性に満ちている。
そんな「生きにくい人々」や「世間」が魚人間を通して各々の様相を呈していく中、魚人間となった彼自身は物静かに俯いている。
瞬きのない目を見開き、笑顔のない顔で。
傷つきながら、渦中の人になりながら、流れていく世間の中で、魚人間は悲しいくらいに自らの状況を受け入れ続ける。
魚人間になってしまった彼が、一度だけ語る夢。人としての夢。
魚になってしまったばかりに、世間に騒がれ引っ掻き回された彼の人生は幸せなものでは無かった……という無情感の中で、映画はラストに向かい、魚人間である彼の人生の終着点を示す。
それは、観客である私にも、また、生きにくさを抱えながら、記者志望の夢に迷い続け魚人間を見つめ続けた主人公にも、強いメッセージをもたらしてくれた。
私の大好きな監督による最愛の映画の一つに『シェイプ・オブ・ウォーター』がある。
世間と、世間そしておとぎ話の消費者とも言える観客の価値観を静かに洗い流すような、半魚人と人間のラブストーリー。
魚人間つながりで言ってしまえば『フィッシュマンの涙』は、
「ユーモアと社会の汚さと重たさにまみれたバージョンのシェイプ・オブウォーターで冷たく熱くぶん殴られた」
ような感触の映画だった。
そしてぶん殴られた頭と心の場所は世の不条理の痛みに疼きながら、爽やかな海水の匂いと鱗の感触でしっとり優しく湿っている。
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