『ゾンビーバー』と『クズ・ゾンビ』で変化球ゾンビハッピーセットした話(紹介&ネタバレ有感想)
Netflixでは独占公開のホラーを結構観てきたんだけど、このところ立て続けに“雰囲気ホラー”とか“アート系ホラー”ばかりに出会ってしまっていて、少しばかり疲れ気味。
完全にアート寄りで、噛み砕くにはストーリー上で示されるもの以外にも考察を要するような『荒れ野』。
独特な間と起伏少な目の恐怖が続く『ザ・ヴィジル~夜伽~』。
社会問題がテーマで“怖さ<テーマの深刻さ”だった『獣の棲む家』。
それぞれ嫌な作品ではなかったけれど、怖いホラー映画を観たいな~ってテンションで観たせいでちょっと物足りない(個人的にこういう映画は嫌いではないけど、ホラー要素期待してではなく、テーマとか特色を知った上で観た方が楽しめる)。
空腹で肉をオーダーしたら出てきたものが「大層な皿の中心に模様みたいなソースと金箔で飾られたコロッケより小さなオシャレ肉」だった、くらいの感じである。
こうなるともはや、空振りしまくった「怖さへの飢え」は一旦消え失せる。そして、何も考えず手放しにエンカウント率100%の丸出しオバケややりすぎゴアではしゃぎたいという思考停止の感覚に支配されるのだ。
Tボーンステーキ出てくると思ったのに小さなオシャレ肉しか出されなかったらアナタ、帰り道に寄りたいのはもうジャンクフードに決まってる。そして何も考えず食欲の赴くままに、カロリー爆弾のハンバーガーやピザとメガサイズのコーラ。
それと同じだ。
Netflixのオシャレホラー・怖さ控えめホラーラインナップでは物足りないこんな時、心機一転、飢餓を満たす私のジャンクフード屋さん的存在は、B級ホラーの品揃え無敵のU-NEXTとオソレゾーン。
『アタック・オブ・ザ・キラートマト』もある。『死霊の盆踊り』もある。
最近アマプラでも配信されて(一部で)大盛り上がりだった『必殺!恐竜神父』もあるし、トウモロコシ畑のサメ映画『シャーコーン』もある。
取り敢えずU-NEXTに飛び込んでマイリストを開き、今回私がいただいたのは変わり種ゾンビのハッピーセット。
カロリー満点、ギャグ・エロ・ゴアの三段重ねバーガーこと『ゾンビーバー』。
そして胸焼け防止どころか更なるB級ホラー成分摂取のためのサラダとして、以前から興味津々だった植物系ゾンビパニック『クズ・ゾンビ』。
ちなみに『ゾンビーバー』は二回目、『クズ・ゾンビ』は初めての鑑賞だったが、両方とも結構お気に入りなので、今回はこれら二作について書いていこうと思う。
繰り返しになるけど、これらはまごうことなきB級ホラー。なのでギャグ、エロ、ゴアを含みます、苦手な人は回れ右。
最初にネタバレ無しで二作品の簡単な紹介をした後、ネタバレ有りで感想と思い入れを書きます。
■『ゾンビーバー』あらすじ
(原題:Zombeavers 2014年・アメリカ)
医療廃棄物を積んだ車を運転し、おバカな話に花を咲かせる男達。不注意から鹿を轢き殺して爆発四散させひき肉にしてしまう。そのはずみで廃棄物の缶が荷台から落ち、川へ転がった事にも気がつかない有り様だった。
仲良しの女子大生三人組、メアリー、ゾーイ、ジェンは、彼氏に浮気されたジェンの傷心を癒すために、湖そばの山小屋へとバカンスに出掛けた。
湖には野生のビーバーの痕跡があった。が、そこにビーバーはおらず、ベタベタした謎の物体が。
女三人のバカンスのはずが、後を追って乱入してきた彼氏達と結局合流し楽しく飲酒、メアリーとゾーイは早速彼氏とお楽しみの夜を過ごす。
ちなみにジェンと彼氏は険悪ムード。
そんな時、ジェンは山小屋に入り込んで来たビーバーを発見するが、そのビーバーはとんでもなく凶暴で、動物とは思えない恐ろしい形相を見せ……?!
■『クズ・ゾンビ』あらすじ
(原題:KUDZU ZOMBIES 2017年・アメリカ)
家畜の餌として日本からアメリカに持ち込まれた植物・クズ(葛)は、一部の地域では気候が合いすぎてめちゃくちゃに繁茂し、厄介な外来種として繁栄を極めている。
ある研究者達は環境の為、新開発の薬剤をクズに散布し除草実験を行っていた。
とある小さな田舎町。
町の人々のバンド演奏や出店で賑わう祭りの日、若者の一人が様子のおかしい男に襲われ傷を負ってしまう。
その男はクズで育てたヤギを肉屋に卸す仕事をしており、祭りでは今まさに、その肉を使ったミートパイが大人気。
その時、老若男女が歌やゲームや屋台をエンジョイしている祭りの会場に、緑色の異様な外見に変わり果てた男が現れ人々を襲い始めた!!
※ここから内容やラストに言及しての感想となります。ネタバレ注意!
□『ゾンビーバー』感想……B級ホラーの全部乗せ!+αのおバカ炸裂ナンセンスギャグホラー!
ゾンビのビーバー、ゾンビーバー。
おバカでスケベな若者達を襲う恐怖のゾンビとしてまさかビーバーが現れるとは、『CABIN』の例の人々のレパートリーにも無かっただろう。
このゾンビーバー、存在がもう愛おしい。ぬいぐるみ感・ラジコン感丸出しのオモチャっぽさに、ゾンビですよとばかりに一丁前に剥いた白目。
ただ斬新な種類の動物をゾンビにしただけじゃなく、木を倒して逃げ道を阻んだり、板切れで窓を補強してもへっちゃらで噛み砕いてくる等、“ビーバーならでは”の襲い方をきちんと見せてくるのもステキ。
最大のツッコミ所は、ゾンビーバーに咬まれた人間がゾンビーバーになる、という事。
ゾンビーバーからゾンビ感染してゾンビ人間に、ではない。
ゾンビーバー人間になる(笑)。なぜなんだぜ(笑)。
襲われる若者達はB級ホラーらしくおバカでスケベな連中なんだけど、襲われ殺される順番がちょっと意外だったり。ありがちな雰囲気だと最初はゾーイだろ!これは意外。
おまけに、この若者達、観ていて好感度がどんどん下がっていくのだ。
特に主人公の女の子三人。みんなめちゃくちゃキュートでキレイなのに助かって欲しいとは思えない上、助かっても互いにいがみあったりと、マジで応援できない。
ゾンビーバー側を応援してしまう人も多そうな気さえしてくる。早くこのどうしようもない姉ちゃんに咬みついてくれ!!と(笑)。
ラストはまさかの“天丼”。びっくりするほどさわやか。
そして何も解決していない(笑)。
エンディング後も俳優さん達のNG集やおバカな撮影風景、突然の蜂の映像でゾンビーバーに続き「ゾン“ビー”」の存在を匂わせる下らなさも最高。
何より「ゾンビーバーの歌」がクセになる。
ハッピーエンドでもないのに何の後腐れもない、ノリノリのホラーコメディです。
□『クズ・ゾンビ』感想……植物系ホラーに期待の新星!それは駆除しきれない日本からの外来種・クズ!
クズ(葛)は英語でもkudzuだそうで、まさか我々日本人に身近(しかも本葛は貴重)な植物が海外で厄介者になっていたなんて。
それが人をゾンビにしてしまうまでの厄介ぶりを発揮するだなんて!!
しぶといクズ×新開発の除草剤、で思わぬ突然変異が起き、人の体を侵食しゾンビにしてしまうバイオ・クズが爆誕!
(しかもその除草剤の開発にはクズの出身地である日本の美人研究者も携わっている)
ゾンビーバーに対して『クズ・ゾンビ』のゾンビは、一目見て「こいつはクズのゾンビだ新しい!」と思えるような新鮮なヴィジュアルではない。
変異末期?ともなると植物っぽい皮膚感になったりするようだが、発症直後のぱっと見は基本的にスタンダードなゾンビスタイル(しかし、体の中にチュルチュルとクズが成長している)。
襲い方やゾンビとしての能力も“クズならでは”というものは特に目立たず、咬みついて貪り、手足をもぎ取るなどいたってゾンビ的。
映画を通しても、クズスタートのゾンビ化が広がっていく、というわちゃわちゃとしたパニックがメイン。
(武器では死ななくてもクズのゾンビなら除草剤で退治できるかも!みたいな胸アツどんでん返しの展開はない。まあ、駆除できるはずの特別な除草剤で変異したクズ、という存在だし)
ひたすら逃げて殺して感染して……を観ていくストーリーではあるのだが、ここもゾンビーバーとは正反対で、主人公サイドの若者達が全員いい奴である。
元カノに未練があるミートパイ屋さん手伝いの青年。
そんな元カレを振りきるべく町を出ていて、新しい彼氏と祭りに遊びに来た元カノ。
そんな彼女の本心を知って、ゾンビ化しながらもよりを戻すよう背中を押せる超ナイスガイの今カレ。
負傷した友達を連れて逃げるべく、囮をかって出る勇敢な青年。
女をバカにする田舎の風潮にも中指を立てて堂々と大人を煽る、ラブラブな女性同士のカップル。
間抜けだがやる時はやる市長さん。
小さな田舎の町が舞台だからか、基本的に全員が顔見知りで、かついい奴であり、自分だけ助かろうとか、咬まれた人を見捨てようとかは誰もしない。
それどころか、仲の悪かったライバル肉屋同士も一緒にクズゾンから逃げる。
それぞれちょっとおバカで、でも仲間や家族思いで、B級ホラーの若者としては珍しいくらい愛着が持てる。
中でも、シンプルにお色気要員と思われた女性カップルのトリシュ(装備:鉈)とジェニファー(装備:機関銃)、特にトリシュの戦闘力がすごい。
『バウンド』の二人より強いんじゃないのか、ってくらいだ。嬉々として武器を持ち、猛然とクズゾンに立ち向かって行く。
銃を装備した仲間がいるのに、皆で逃げるときはトリシュが先頭に立って鉈をぶん回し露払いをしたりする(笑)。この鉈さばきがめちゃくちゃ味がある。
アクションが上手いとか、ゴアエフェクトが凄いとかではなく、先陣きって鉈を振り回す小柄なトリシュがもう、これだけでキャラ立ちしてて面白い。
キャラの強さでいうと、『ザ・ベビーシッター』のビー一味に入れそうなくらいのクセ強。
ラストでは、皆は咬まれたジェニファーを連れて町から脱出するが、ジェニファーはベタなゾンビものによくいる“抗体あり”の救世主なのか?
それとも命からがら生き残った一同に次に立ちはだかるクズゾンとなってしまうのか?
(エンドロールの合間のあのゾンビ二人を見る限り、トリシュとジェニファーはゾンビになってもきっと仲良し……?)
『クズ・ゾンビ』もまた、終わりかたも起承転結もあやふやで、やっぱりゾンビの問題は何にも解決していない(し、やはりB級ホラーあるあるの“今後の匂わせ”シーンがエンディングに挟まれている)。
『ゾンビーバー』同様、ダッシュしながら散らかして投げっぱなし!な、B級ホラーならではの駆け抜け感が心地良い。
そしてそして、この作品もまたエンドロールが良い。
厄介な外来種・クズへのぼやきを歌った「クズの歌」をバックに、クレジットの“違法視聴に関する注意書き”が流れて来るのだが、これがもう(笑)。
(この映画にはニューオリンズの有名なブードゥー司祭により呪いがかけられているので、違法ダウンロードや違法視聴した人は呪われます)
ですって!
怖い!本編より怖い(笑)!
『クズ・ゾンビ』、某お菓子のように、最後までチョコたっぷり。クズゾン成分たっぷりで笑わせてくれた。
□B級ホラーの可愛らしさを愛せるという幸せ
映画好きにもそれぞれに好き嫌いはある。だから交流や他人の感想って面白いのだけど、中には、ハッピーエンドじゃないとか胸クソ悪いストーリーだとかを嫌い酷評するだけでなく
「(観るだけ)時間の無駄」
と切って捨てる人もいる。
勿論それはその人の価値観として尊重されるものだし、それぞれが好きなものを好きなように楽しむのが自由で素敵な映画ライフだ。
(それらを楽しんでいる人に対して「時間の無駄」と言うのは勿論良くないよ)
でもふと、頭空っぽにしてB級ホラーで笑えた後に
「B級ホラーが楽しめるって楽しいな」
みたいな、変なおかしさにクスッとなる事がある。
B級ホラー嫌いな人より感性が優れてるとか、B級ホラー嫌いは人生損してるとか、別にそういう対他者へのマウント的感情ではなく。
何だろう、
「寿司も好きだし鰻も好きだけど、焼きそばが食べたいんだよ今!しかもペヤングがいいんだ!この“ペヤング口(ぐち)”は、鉄板の焼きそばじゃ替えが利かないんだ!」
みたいな事、ない?
私にとって、B級ホラーの魅力ってこんな感じ。
完成度高かったり映像にお金かかってる壮大な作品も、ガチ怖ホラーも好きだけど、難しい事考えず手放しで笑って楽しめるチープなホラーが味わいたい!っていう、替えの利かない感情というか。
ジャンクフード否定派の美食家は“ペヤング口”になる感覚ってきっと無いんだろう。
そう考えると、自分の“ペヤング口”という感覚が面白くてたまらなくなる。そしてペヤングに塩辛を乗せたり食べる辣油を乗せたりしてジャンクの道を探求するが如く、今日も私はアマプラで、U-NEXTで、皆の評価★2とかのけったいなホラーを漁っている。
そして頭空っぽにして笑った後、また、今度はベストオブヤバいリストから観るか~とか言って『冷たい熱帯魚』とかを観てしまい、ミニ四駆のクリアボディ見ただけで具合悪くなったりして、ネトフリに避難しホラーカテゴリから変なポスタービジュアルに惹かれて知らん映画観たらまた雰囲気ホラーでオソレゾーンに……みたいな事を繰り返してる。延々と。
「時間の無駄」と思う人もいるだろう。
でも、私の映画ライフってこれでいいのだ。泣くの目的に作品選んだりもしなければ、国民的ハイアートアニメにも疎いけれど。
余談だが、還暦過ぎの母に『必殺!恐竜神父』を紹介したら、最初は
「ちゃちな恐竜だからおもしろいの?」
とか言っていたが、
「これはアメリカの勇者ヨシヒコみたいなもんだよ」
と伝えたら、あの映画のおかしみというか笑いどころがちょっと分かったようだった。
(「兄弟」のハチマキは気に入った模様)
還暦オーバーからのB級映画エンジョイデビュー。そういうのもあるのか。