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線香花火の灯が消えるまで
夏のうだるような暑さの中、私たちはいつもの河原に集まった。夕暮れの中、空がオレンジ色に染まり、蝉の声が遠くから聞こえる。蚊取り線香の香りが漂う中、何となく言葉少なになっていたのは、これが学生最後の夏の夜だからかもしれない。
「そろそろ線香花火しようか?」誰かがつぶやいた。私たちはそっと火を灯し、静かに線香花火を手にした。最初に灯る小さな火の玉は、酸素を吸い込みながら少しずつ大きくなっていく。その姿はまるで命が芽吹くようで、今にも弾けそうな「蕾」の瞬間に、みんなが息を飲んだ。
「前もこうしてよく集まったね」と一人がつぶやく。いつものように、ただ笑って過ごしていた日々が、今では少し懐かしい。やがて、火花がパチパチと弾け始めた。輝く「牡丹」の火花は、私たちの青春の象徴のようだった。あの頃の無邪気な笑顔や、未来への不安と期待が、目の前の火花と重なって見える。
火花は次第に勢いを増し、「松葉」のように次々と飛び出していく。私たちはこれまでの年月を思い返した。笑い合ったこと、涙を流したこと、それぞれの道を歩み始めたこと。闇夜に散る火花のように、いつの間にか過ぎ去った時間が、優しく心を包み込んでいた。
そして最後の「散り菊」。一本、また一本と火花が静かに落ちていく。誰も何も言わず、ただその瞬間を見つめていた。火が消えると、私たちの手元に残るのは、燃え尽きた線香花火の短い茎だけだった。それでも、心の中には、その儚さが美しい記憶として刻まれていた。
「また、こうやって集まれるといいね」と誰かが言った。私たちは静かにうなずきながら、短くも濃厚なこの夏の夜を心に留めた。今でもその時の写真を見るたびに、なんだか胸が締め付けられそうになるのは、なぜだろう。
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